研究課題
ADAR1は2本鎖RNA中のアデノシンをイノシンへと置換するRNA編集酵素である。最近、RNA編集は、内在RNAがセンサー分子MDA5によって異物として認識されることを回避するためのRNA修飾であることがわかってきた。ADAR1にはp110とp150の2つのisoformが存在しており、MDA5の活性化回避にはp150が必要であると考えられているが、p110によるRNA編集がMDA5活性化回避に必要であるかは不明である。そこで、p110のみを欠損するマウスを樹立したところ、本マウスが生後致死となること発見した。そこで昨年度は、① p110欠損マウスの表現型解析、② MDA5経路の活性化の有無の検証、③ p110 isoformによる責任RNA編集基質の同定、について解析を実施した。① p110欠損マウスの生後致死の原因を探るため、p110が高発現する脳において炎症、細胞死、分化、増殖マーカーについての免疫染色を実施した。さらに、その他の臓器においても解剖学的な異常がないかも併せて検証したが、現状では解剖学的に明らかな異常や炎症像は掴めていない。② p110欠損マウスの生後致死がMDA5活性化に起因するものかどうかを検証するため、MDA5 KOマウスとの2重欠損マウスを樹立した。しかし、生後致死はレスキューされず、MDA5活性化マーカーであるインターフェロン誘導遺伝子群の発現上昇も認められなかった。以上から、MDA5経路に依存しないp110の機能が生後の生存に必要であると結論付けた。③ p110欠損マウスの脳を単離し、トランスクリプトーム解析、RNA編集部位の網羅的解析を実施した。予想通り、野生型に比べ、RNA編集効率の著しい低下が認められたが、編集低下部位と発現変動部位には大きな相関は認められず、生後致死の原因となりうる有力な候補遺伝子は特定できなかった。
2: おおむね順調に進展している
これまでに、ADAR1 p110欠損マウスが生後2日以内に死亡するとのデータを得ている。前年度は、この生後致死の理由を解明するため、HE染色や免疫染色を実施したが、現状では、解剖学的に明らかな異常や炎症像は掴めていない。また、トランスクリプトーム解析においても、生後致死の原因となるような遺伝子の発現変動は認められなかった。このため、これらの解析からは特定できないミクロな異常が存在している可能性を考慮し、Single-cell RNA-seqを予定している。一方で、網羅的RNA編集部位解析では、p110欠損マウスを用いることで、p150の編集部位を特定するといった想定外の成果を挙げることができた(Kim et al, PLoS Genetics, In Press)。また、p110欠損マウスをMDA5 KOマウスと交配させても生後致死はレスキューされなかったことから、MDA5を介さない経路が関与している可能性を示すことができており、おおむね順調に進展していると評価した。
前年度は、HE染色や免疫染色を実施したが、p110欠損マウスが示す生後致死との関連を示す所見は認められなかった。また、トランスクリプトーム解析、RNA編集部位の網羅的解析では生後致死の原因となり得る有力な候補を得ることができなかった。このため、本年度は以下の2つの研究計画を遂行する。まず、Single-cell RNA-seqを実施し、脳に存在する多様な細胞集団や個々の細胞における遺伝子発現パターンについて野生型との差異を解析し、単一細胞レベルでの異常がないか検証する①。また、編集低下部位と発現変動部位には大きな相関が認められなかったことから、生後致死がADAR1 p110によるRNA編集の欠損によるものかどうかを検証する②。すなわち、p110欠損マウスをRNA編集不活化型ADAR1ノックインマウスと交配させ、編集活性を持たないADAR1を発現させることで致死が回避されるかを検証する。
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PLoS Genet
巻: 未定(In Press) ページ: 未定(In Press)