ミノおよび刺胞嚢の形成や機能に関連する遺伝子の探索のため、ムカデミノウミウシのミノ全体、ミノ先端部(刺胞嚢領域)、ミノ基部(消化腺領域)、頭触角・口触角(対照)の試料を調製してRNA-seqを実施し、遺伝子カタログを作成した。さらに解剖により単離した刺胞嚢とそこから絞り出した粘液から抽出したタンパク質について質量分析を実施し、RNA-seqデータを元にアミノ酸配列を決定した。RNA-seqデータの解析により、ミノや刺胞嚢で特異的発現または高発現している候補遺伝子群を探索し、リストアップした。さらにプロテオーム解析により特定されたタンパク質のリストと照らし合わせた結果、免疫システムに関連するタンパク質がミノの先端で特異的に高発現していることが明らかになった。 またミノの先端を切除し、人為的に刺胞嚢の再生を誘導し組織観察を実施した結果、刺胞を含まない刺胞嚢を作出し、その詳細を観察することができた。刺胞を取り込んでいない盗刺胞細胞では細長い仮足のような突起がみられ、これにより刺胞を捕捉すると予想される。このような挙動は免疫システムに関連する貪食細胞でみられるものと似通っており、RNA-seqおよびプロテオーム解析の結果と照らし合わせると、盗刺胞では免疫システムが何らかの形で転用されていることが推察される。
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