研究課題/領域番号 |
20J11318
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山本 剛史 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | 量子熱輸送 |
研究実績の概要 |
予定していた、局在転移が断熱ポンピングに与える影響に関する研究は、量子モンテカルロ法および数値繰り込み群の手法による数値計算では、十分な精度に到達できないことが分かった。そのため、研究計画を変更せざるを得なかった。しかし、新しく立ち上げた研究のうち、量子ラビ模型を介した熱輸送に関する研究では、二準位系では現れない量子ラビ模型の多準位系に特有の熱輸送特性が現れることが分かり、多準位系を介した熱輸送の理論の基礎を与えることとなり、近年その実現が始まっている量子熱デバイスへの応用に役立つことが期待される。量子ラビ模型と似た性質を持つジェームズ-カミングス模型でも同様な多準位系に特有な熱輸送特性が現れるかについては、現在も研究を遂行中である。 また、乱れのある1次元ジョセフソン接合列におけるマイクロ波散乱に関する研究も行った。1次元ジョセフソン接合では、古典極限において、乱れによってジョセフソン接合列中のモードに集団的ピン止め効果が現れることが知られている。この研究では、透過率や反射位相などの物理量に集団的ピン止め効果の動的な性質について明らかにした。この研究成果によって、乱れによって生じる複雑な局在状態についての理論的な示唆を与えることが期待される。その他のリヤプノフ指数などの物理量の計算や、白色ノイズポテンシャルや有色ノイズポテンシャルなどの既知の模型との比較に関しては、現在も研究を遂行中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた断熱ポンピングに関する研究計画では、初めにアンダーソン模型に対して、化学ポテンシャ ルを断熱的に変調させることによって輸送される電荷について考えていた。そこで、その電荷を評価すべく、数値くりこみ群の計算コードを作成し、先行研究と比較することで計算コードが正しく動作していることを確認した。しかし、数値くりこみ群の手法では、輸送される電荷については、正しく評価するには十分な精度ではないことが分かった。 以上のことからも計画を変更せざるを得なかったが、新しく立ち上げた研究のうち、量子ラビ模型を介した熱輸送に関する研究では、二準位系では現れない量子ラビ模型の多準位系に特有の熱輸送特性が現れることが分かるなど、現在も研究が順調に進んでいる。 また、1次元ジョセフソン接合列に関する研究では、フランスの共同研究者のもとに滞在し、綿密に議論を行いながら研究を遂行していく予定だったが、コロナウイルスの影響で渡航が中止になった。しかし、現在もオンラインではあるが共同研究を実施している。
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今後の研究の推進方策 |
断熱ポンピングによって輸送される電荷について、数値くりこみ群の手法では十分な精度が得られなかったため、他の有用な評価方法を模索する。 また、量子ラビ模型を介した熱輸送と乱れのある1次元ジョセフソン接合列におけるマイクロ波散乱に関する研究も引き続き遂行する。 さらに、磁性不純物のある金属界面で生じるスピン流に対して、近藤効果が生じることによってスピン流がどのように影響を受けるのかについて、数値くりこみ群の手法を用いて明らかにする。
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