令和3年度に実施した研究の主な成果は以下の通りである。 【1】諏訪信仰にまつわる縁起譚・伝承について、聖徳太子伝の影響という観点から分析した。その結果、『諏方大明神講式』における太子伝の受容に伴う縁起譚の変容が後の『諏訪信重解状』や諏訪上社社家の神長家・大祝家の氏祖伝承などに多大な影響を及ぼしていること、これまで歴史的事実の反映とも捉えられることもあった〈伝承〉が文学的・思想的な営為の産物であったことを、具体的な事例に基づいて明らかにすることができた(この成果の一部は『伝承文学研究』第70号にて公表した)。 【2】諏訪信仰の代表的な縁起書である『諏方大明神画詞』の諸本調査を行い、そこで得られた知見に基づき諸本の成立年代や系統を再検討した。その結果、これまで最古写本とされてきた権祝本が実際は最古写本でなく江戸時代に入ってからの写本であること、また権祝本の系統と並び立つ一群として叡山文庫本を中心とした諸本があることを新たに明らかにすることができた。それを通じて『諏方大明神画詞』受容史および諏訪信仰史の再検討・再構築の必要性を提起した(この成果については『国語国文研究』第157号にて公表した)。 【3】諏訪明神の縁起と関わる『先代旧事本紀』とそこに記される国譲り神話についての研究を進め、吉田兼倶の『日本書紀』注釈における『先代旧事本紀』の新たな位置付け、およびそれに端を発する神話の変容の様子を検討した。また、そこで変容した国譲り神話が林羅山『本朝神社考』を経て諏訪社にも受け入れられ、『諏訪上社社例記』や略縁起類といった諏訪社の公式的な縁起によって発信されつつさらに変容していくという、近世の諏訪明神縁起における国譲り神話の受容の実態を明らかにした(この成果については『国語国文研究』第158号、および『古事記年報』第64号に公表した)。
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