研究課題/領域番号 |
20J11377
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
辺 浩美 北海道大学, 水産科学院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | トロンボポエチン / レクチン / トロンボポエチン受容体 / 糖鎖 |
研究実績の概要 |
トロンボコルチシン(ThC)はミクロネシア産海綿Corticium sp.から得られた新規タンパク質である。ThCは血小板分化に関わるサイトカイン、トロンボポエチン(TPO)の受容体に作用しTPOと類似した活性を示したが、その詳細は不明であった。 今年度の本研究では、ThCはどのようにTPO受容体へ作用しているのか?この疑問の答えの一端を捉えることができた。 本研究ではまず、ThCのアミノ酸配列を決定した。Edman分解とMS/MSによるペプチドマスマッピングを用いて全配列を推定したところ、アミノ酸131残基のタンパク質であることが明らかとなった。ThCのアミノ酸配列はTPOとの類似性が無い一方で、バクテリア由来のレクチンと相同性を持つことが分かった。レクチンとは糖と結合するタンパク質の総称である。この結果からThCと糖との結合性を調べたところ、フコースとマンノースに親和性を持ち、細胞培養液にThCと同時に添加するとThCの活性が著しく阻害された。さらに、X線結晶構造解析の結果からThCはフコースとマンノースとの共結晶が得られている。したがって、ThCはTPO受容体の糖鎖に結合することで、活性を発揮しているのではないかという仮説が生じた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
“ThCはTPO受容体の糖鎖に結合することで、活性を発揮している”という仮説を裏付けるため、TPO受容体のどの糖鎖に結合しているかを検証した。TPO受容体には4ヶ所のN型糖鎖結合部位が存在している。これら4ヶ所のアスパラギン残基をグルタミン残基に置換した変異TPO受容体を用いてThCの活性への影響を調べたところ、Asn 117を欠損している変異体で活性が大きく阻害された。したがってThCはAsn 117上の糖鎖に結合することで受容体を活性化していることが示唆された。 次に、ThCによる活性化の標的糖がTPO受容体上のフコース、マンノース、もしくは両者なのかを調べた。糖鎖中のフコースは通常、細胞外からそのまま取り込まれるSalvage pathwayと細胞内GDP-Mannoseから変換されるDe novo pathwayの2種類を利用し供給されている。6-Alkynyl-Fucose(6-Alk-Fuc)を細胞培養液中に加えると、フコースの代わりとなってこの両経路を遮断し、フコースを含まない糖鎖、もしくは6-Alk-Fucを含む糖鎖が生成され、多くの場合フコース結合性のレクチンは結合できなくなる。この性質を利用してFucを6-Alk-Fucに置換した細胞にThCを加え、その活性を調べた。その結果、ThCの活性は完全に阻害された一方で、TPOの活性にはほとんど影響を及ぼさなかった。このことから、ThCはTPO受容体Asn117糖鎖上のマンノースではなく、フコースに結合することで活性を発揮していることを確認することができた。
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今後の研究の推進方策 |
骨髄増殖性腫瘍(MPN)という疾患はその原因の一つに分子シャペロンであるCALRの変異がある。小胞体で変異CALRのレクチンドメインがTPO受容体Asn 117上の糖鎖と結合し、複合体のまま細胞表面へ発現、TPO受容体が活性化状態でシグナルが入り続けるため、血小板の異常な増加が起こる。最近の研究では、通常TPO受容体にTPOが結合するとTPO-TPO受容体複合体が速やかに細胞内に取り込まれ、シグナル伝達が停止する一方で、変異CALR-TPO受容体は一定時間経過後も細胞内に取り込まれることなく、シグナルが持続するという観察結果が報告されている。しかしCALR変異体は培地に添加する形で細胞外から添加しても活性化は起こらないという点がThCとは決定的に異なる。CALR変異体と似て非なるThCはこれら疾患のメカニズムを解明するうえでも有用だと考えられるため、細胞内のシグナル、細胞表面の受容体量などを詳細に比較しながら更なる理解を深めたい。 また、ThC以外にもいくつかの海綿抽出物にTPO様の活性を示すものが見つかっており、これらの活性本体の特定と活性化メカニズムの詳細も追っていきたい。
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