研究課題/領域番号 |
20J11437
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
瀧口 あさひ 名古屋大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | ビリンジオン / オキサポルフィリン / カチオン性ポルフィリン |
研究実績の概要 |
ポルフィリンの酸化的開裂反応の条件を見直すことにより、その開環体であるビリンジオンを鉄ポルフィリンから簡便に高収率で得る合成法を開発した。これに無水トリフルオロメタンスルホン酸を作用させることで5-オキサポルフィリニウムカチオンのフリーベース体を得た。この化合物では、一般的なポルフィリンとは異なり内部の2つの水素がcis位に位置する方が有利であった。これは正電荷の非局在化に由来するものと考えられる。この化合物は複雑な吸収スペクトルや二重蛍光性を示した。種々の分光学的測定や理論計算により、これらの光学特性がcis体とtrans体の両者が共存することに由来することを明らかにした。 オキサポルフィリンに種々の金属塩を作用させることにより、種々の金属錯体を得ることに成功した。さらに亜鉛錯体から2段階の反応を経ることで、チアポルフィリンを得ることに成功した。チアポルフィリンは1970年代に報告があるが、不安定で単離できなかった。今回合成したチアポルフィリンは非常に安定で、種々の物性調査が可能であり、今後は詳細を検討する。 さらに、ヘム鉄獲得タンパク質(HasA)に、今回合成したオキサポルフィリンを添加したところ、コバルト錯体が挿入された。放射光X線によるタンパク質結晶構造解析で構造を確認した。緑膿菌は、ヘム鉄とは異なる合成化合物を捕捉した「偽のHasA」と、ヘム鉄を捕捉した「本物のHasA」を区別できないことを利用して、緑濃菌の増殖を抑制する事に成功した。 オキサポルフィリンがπ平面に非局在化した正電荷を有することに着目し、π-アニオンと集積させることでπ電子系イオン集積体の作成を試みた。PCCpという平面型アニオンと混ぜることで、新たなπ電子系イオン集積体を合成した。オキサポルフィリンとPCCpが溶液中で集積していることを、NMR測定から明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ポルフィリンを切断して高収率にビリンジオンを合成する手法を開発し、これを用いてオキサポルフィリンを合成することに成功した。得られたオキサポルフィリンの構造を明らかにし、予想外に2つのNH基がcisに配置された異性体の方が安定であることを見いだした。ポルフィリンでは、2つのNH基は立体障害のためtrans配置となるのが常識であり、これを覆す発見をした。さらに、NH基のcisとtransの異性化にともなってオキサポルフィリンは二重蛍光を示すことも明らかにした。 さらに、異分野の研究者との共同研究にも積極的に行い、得られた化合物の新たな応用展開を進めている。生物無機化学分野の研究者との共同研究では、合成したオキサポルフィリン錯体のタンパクへの取り込みにも成功し、オキサポルフィリン錯体の緑濃菌の増殖抑制作用も見いだしている。また、オキサポルフィリンを用いたイオンペア形成を見いだし、現在イオンペアの物性や機能の探求を精力的に進めている。
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今後の研究の推進方策 |
新たに得られたチアポルフィリンについて、種々の物性測定を行う。ヘムタンパク質との再構成については、データが集まったので論文化する。イオンペア形成については、様々なアニオンとの会合により、興味深い性質が解明されつつあるので、さらなる調査を行い、論文にまとめる。加えて、新たなヘテロ原子含有ポルフィリンの合成にも挑戦する。
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