オキサポルフィリニウムカチオンに種々の金属塩を作用させることで、対応する金属錯体を良好な収率で得ることができた。その中からコバルト錯体をヘム獲得タンパク質(HasA)に取り込ませることに成功した。このタンパク質複合体は、緑膿菌の増殖阻害効果を示した。オキサポルフィリニウムカチオンによる阻害活性は、通常の中性コバルトポルフィリンよりも高く、その理由が正電荷による中心金属のLewis酸性の向上に起因していた。 次に、オキサポルフィリンがπ平面に非局在化した正電荷を有することに着目し、πアニオンと集積させることでπ電子系イオン集積体の作成を試みた。PCCpという平面型アニオンと混ぜることで、新たなπ電子系イオン集積体を合成した。理論計算から、この集積体の分子間相互作用には、静電相互作用だけでなく分散力が重要であることを明らかにした。 また、硫黄をポルフィリン骨格に挿入したチアポルフィリニウムカチオンを合成した。この化合物は一重項励起状態から内部転換で失活することが、分光学的測定と理論計算から明らかになった。この内部転換は、硫黄原子がポルフィリン平面の外に動く振動モードに起因することを明らかにした。 さらに、窒素原子を組み込んだアザポルフィリニウムカチオンの合成と物性評価を行った。この化合物は窒素上のフェニル基とβ位のエチル基の立体反発により、内部窒素の空孔が長方形に歪んでいた。温度可変NMR測定から2つの内部水素の活性化エネルギーを見積もると、オキサポルフィリニウムカチオンや一般的なポルフィリンよりも大きいことが判明した。
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