研究課題/領域番号 |
20J11484
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
SONG SEUNGHOAN 名古屋大学, 多元数理科学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | プライベート情報検索 / 量子プライベート情報検索 / 対象プライベート情報検索 / 通信路容量 / 情報理論的セキュリティ / 秘密分散 |
研究実績の概要 |
現在まで三つの研究成果を出している。1.サーバーが結託する場合の量子プライベート情報検索の最適効率導出や最適プロトコル構成、2.量子状態を送るための量子プライベート情報検索、3.対称プライベート情報検索と非完全秘密分散の同値性。 まず、サーバーが結託するときの量子プライベート情報検索について研究した。この研究では、複数のサーバーが結託する場合でも、その数が全体サーバー数の半数以下であれば、プライベート情報検索が効率よく可能であることを証明した。また、半数以上のサーバーが結託する場合についても、その最適効率を証明し、最適なプロトコルの構成方法まで考案した。 次に、量子状態を送るためのプライベート情報検索を進めた。これまでの研究では、古典情報を送るためのプライベート情報検索に、量子通信を利用可能にしたら現れる効率向上に注目していたものの、この研究では量子状態そのものを送るためのプライベート情報検索を議論した。 最後に秘密分散(Secret Sharing)とプライベート情報検索の関係について研究した。この二つのプロトコルは、秘匿性を保証するために機密情報を分散させるという点で類似な構造を持っている。しかし、プロトコルの目的や詳細な構造がことなるため、二つのプロトコルは同値でない。一方、秘密分散やプライベート情報検索は様々な設定に拡張されている。我々は、その中で非完全秘密分散(Non-perfect Secret Sharing)と対称プライベート情報検索(Symmetric Private Information Retrieval)の同値性を証明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
「研究実績の概要」で述べた三つの研究成果から、本研究課題の進捗状況を述べる。 1.研究計画通りに、サーバーが結託するときの量子プライベート情報検索についての成果を出し、結果をまとめた。その結果を複数の国内・国際学会で発表した。また、今後の課題を結論にまとめて、論文誌 IEEE Transactions on Information Theory に掲載予定である。 2.研究計画では、その次の課題として、より強い攻撃モデルの下での量子プライベート情報検索を研究する予定であった。しかし、量子状態を送るためのプライベート情報検索がまだ研究されていないことに気づき、この研究を先に進めた。この決定は、以前の成果をより掘り下げる研究より、本研究課題と関連した新しいテーマの作り出す研究の方がより価値あるという判断に基づいている。この結果は国際学会IEEE International Symposium on Information Theoryで発表予定である。 3.さらにインパクトのある研究だと判断して3つ目の研究を進めた。本研究課題は量子プライベート情報検索であるものの、現段階の論文では量子情報を扱っていない。しかし、量子秘密分散や量子プライベート情報検索にも同じ同値関係があると予想するので、拡張を検討している。この結果は国際学会IEEE International Symposium on Information Theoryで発表予定である。 さらに、量子プライベート情報検索の研究成果を学位論文にまとめ、2020年12月に数理学の学位を取得した。当初の計画より早期に学位を取得したため、残りの採用期間には、新しい研究成果を出すことに集中できる。
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今後の研究の推進方策 |
まず、当初の研究計画のように、より強い攻撃モデルに対する量子プライベート情報検索も研究する予定である。この課題に関しては、現在、フィンランドのAalto大学やドイツのTU Munichの研究者と共同研究を進めている。 また、「研究実績の概要」で述べた研究成果2と3を拡張する予定である。研究成果2については、初めての量子状態を送るプライベート情報検索であるものの、成果が部分的なところがある。具体的には、サーバが一台のときの不可能性がある仮定のもとでしか証明されていなく、サーバが複数の場合は二台のサーバのプロトコルしか扱っていない。そのため、今後は、サーバが一台のときの不可能性の完全な証明とサーバが三台以上のときのプロトコルの構築を研究する予定である。 研究成果3については、現在までの結果が量子でないプライベート情報検索であるため、量子プライベート情報検索に関する結果にまで拡張する予定である。つまり、量子秘密分散や量子プライベート情報検索にも同じ同値関係があると予想するので、拡張を検討している。さらに、情報理論で盛んに研究されているネットワーク符号やワイヤタップチャンネルの結果も、今の同値関係と関連していると予想している。そのため、それらの研究テーマがプライベート情報検索や秘密分散との同値関係について研究を進める予定である。
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