本年度は、可視光を用いる反応開発に取り組み2つの研究成果を得た。 1. 可視光を吸収可能な新たなリガンドを合成し、金属を間接的に活性化することで、新規反応の開発を目指した。はじめに、量子化学計算による吸収波長の予測を行った。候補として考えたリガンドのPd錯体の吸収波長を計算したところ、可視光領域に吸収波長を有することが示唆された。そこで実際にリガンド分子の合成を行い、Pd塩と混合したところ、赤褐色の沈殿を得た。しかしながら現在のところ構造決定には至っていない。次に吸収スペクトルの測定を行った結果、赤褐色沈殿ではリガンド分子に比べ吸収波長が長波長化していることがわかった。また計算科学による吸収波長の予測値とも良い一致を示した。合成したリガンド分子を用いて、可視光照射下、クロスカップリング反応の検討を行ったが、新規反応の開発には至らなかった。 2. 可視光照射による温和な反応条件下、C-H結合の直接アルキニル化反応が進行することを見出した。C-H結合の直接アルキニル化反応は、これまで熱や紫外光を用いるラジカル反応にて達成されてきたが、過酷な反応条件ゆえに基質一般性に課題が残されていた。検討の結果、触媒量のベンゾフェノン、アルキニル化剤として超原子価ヨウ素存在下、400 nmの可視光を照射することで、エーテルやアミドなど幅広い基質のアルキニル化反応を達成した。また、用いる超原子価ヨウ素を変えるとで、様々なアルキンの導入も可能であった。分光実験の結果、本反応ではベンゾフェノンのみが、スピン禁制遷移である直接S0→Tn遷移により励起されることで、単一分子の選択的な活性化および温和な反応条件を実現していることがわかった。
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