研究課題/領域番号 |
20J11502
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
赤星 友太郎 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | 格子QCD / エキゾチックハドロン / ハドロン間相互作用 / ハドロン共鳴状態 / 素粒子物理学 / 原子核物理学 / ハドロン物理学 |
研究実績の概要 |
近年、複数の新奇なハドロン共鳴状態の発見により、これらの状態の量子色力学(QCD)による第一原理的理解への期待が高まっている。本研究では、格子QCDからハドロン間相互作用を計算する手法であるHAL QCD法を用いた共鳴状態の解析における、技術的な困難(非常に計算コストが大きいクォーク伝搬関数の全成分計算を扱う困難)の克服・計算方法の確立と、確立した手法を用いた未解明共鳴状態の性質解明を目指す。 今年度は、まず計算手法の確立に関して、これまでに格子QCDで用いられてきた様々な手法を組み合わせた新たな手法を提案し、性質がよく知られたロー中間子共鳴状態が現れるアイソスピン1パイオン2体散乱(P波)の計算を通してその有用性を検証した。その結果、アイソスピン1パイオン2体相互作用ポテンシャルをこれまでよりも高い次数まで決定することに成功し、それを用いて計算された物理量はロー中間子共鳴状態の持つ典型的な性質を再現することが確かめられた。 次に、実験室系(全運動量が非ゼロ)におけるHAL QCD法の理論定式化の数値的検証を行った。実験室系での計算は、今後の未解明ハドロン共鳴状態の研究において不要な系統誤差を減らすための有力な手段であり、この検証は非常に重要である。本研究では、高精度での計算が可能なアイソスピン2パイオン2体散乱(S波)で検証を行い、結果として重心系での計算と同様の相互作用ポテンシャルが計算できることが確認された。 最後に、今年度から新たな方向性として、これまでの共鳴状態研究で培ってきた計算技術の核子間相互作用計算への応用研究が開始された。新たな計算技術の導入により、これまで困難だった核子P波散乱の解析や、取り除くことが難しかった系統誤差の軽減などが可能となる。今後、スーパーコンピュータ富岳での運用も視野に入れながら本格的な計算を進めていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
未解明ハドロンの性質解明に向けた重要なステップである、計算手法の確立に関する進展があり、その土台が整ってきている。そのため、来年度以降の未解明ハドロンへの挑戦がスムーズに進んでいくことが期待される。また、研究を通して当初の計画になかった新たな方向性も生まれてきており、発展性も十分にある。
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今後の研究の推進方策 |
今年度で、計算手法の土台は概ね整ってきている。そのため、今後はそれらの手法を応用し、未解明ハドロンの性質解明に挑戦していく予定である。具体的には、本研究でターゲットとしているシグマ共鳴状態が現れるアイソスピン0パイオン2体散乱(S波)を、ロー中間子の解析で用いた計算手法と実験室系の定式化を組み合わせて運用することで解析する。これにより、HAL QCD法で得られる相互作用からシグマ共鳴状態の実態に迫ることができ、その理解が進展することが期待される。 また、新たな方向性である核子間相互作用の計算についても、今後本格的な計算(P波散乱含む)を進めていく予定である。
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