近年、複数の新奇なハドロン共鳴状態の発見により、これらの状態の量子色力学(QCD)による第一原理的理解への期待が高まっている。本研究では、格子QCDからハドロン間相互作用を計算する手法であるHAL QCD法を用いた共鳴状態の解析における、技術的な困難(非常に計算コストが大きいクォーク伝搬関数の全成分計算を扱う困難)の克服・計算方法の確立と、確立した手法を用いた未解明共鳴状態の性質解明を目指す。 本年度はまず前年度からの継続課題として、実験室系におけるHAL QCD法に関して前年度よりも系統誤差が少ないと期待されるセットアップにて計算を行い、より詳細なデータを得た。 次に、これまでの一連の研究により、かねてから計画していたシグマ共鳴状態が現れるアイソスピン0パイオン2体散乱(S波)の解析に必要な技術や知見は揃ったため、本年度からこの系に対する具体的な計算を開始した。本年度は計算コスト等を考慮し、シグマ共鳴状態が束縛状態として現れることが予想されるセットアップで計算を行った。その結果、まず重心系での計算において問題となる真空状態の混合について、実際の数値計算でその存在を確認することができた。これを踏まえ、実験室系の利用など真空状態を除去するための方策を実際に適用し、その有用性について検証を行った。検証の結果、実験室系の利用などによって真空状態が抑制されることを示唆するデータは得られた一方で、統計誤差の増幅が見られ、真空状態を除去した上で実用可能な精度の解析を行うためには更なる工夫が必要であることが明らかとなった。 最後に、バリオン間相互作用計算への応用研究として、本年度はグザイ粒子2体相互作用の計算を行なった。先行研究の結果と合わせることで系統誤差に関する一定の理解は得られたが、今後も継続調査が必要である。
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