研究課題/領域番号 |
20J11528
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
杉本 理菜 北海道大学, 生命科学院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | Paneth細胞 / 腸内細菌 / α-defensin / 自然免疫 / DOHaD / 高脂肪食 |
研究実績の概要 |
ヒトは約20~30兆個もの腸内細菌と共生している。近年、腸内細菌叢の組成変化や多様性の減少であるdysbiosisが肥満症や自閉症をはじめとした様々な疾患に関与することが報告されている。妊娠期に高脂肪食を摂取した母親から生まれた子はdysbiosisを引き起こすことが報告されているが、その破綻の原因はいまだ不明である。 小腸陰窩基底部のPaneth細胞は細胞質顆粒中の抗菌ペプチドα-defensinを分泌する。α-defensinは、病原菌は殺すが常在菌は殺さない選択的殺菌活性を有し、腸内細菌叢を制御している。以上より、母親の高脂肪食摂取が子のPaneth細胞の発達やα-defensinの産生に悪影響を与えることで腸内細菌叢の破綻を引き起こすのではないかと考えた。本研究は、母親の高脂肪食摂取が次世代のPaneth細胞の発達や腸内環境制御機能にどのように影響を与え、生体恒常性に関与するかについて、機序を解明することを目的とした。 令和2年度は、まず、母親の高脂肪食摂取が子のPaneth細胞の発達に与える影響を解析するため、免疫組織化学的染色法による評価を行った。通常食摂取の母親由来の子と比較して高脂肪食摂取の母親由来の子において、細胞質顆粒が未熟なPaneth細胞の割合が多いことを明らかにした。さらに、Paneth細胞からニッシェシグナルを供給されて自己複製と分化を制御している腸上皮幹細胞の細胞数が減少していることを明らかにした。また、母親の高脂肪食摂取が子のPaneth細胞を含む小腸上皮の発達に与える影響を解析すると、腸上皮細胞の統合性や機能を示すマーカー遺伝子群の発現異常を示した。さらに、母親自身の腸内細菌叢の解析を行うと、高脂肪食摂取の母親でdysbiosisが生じていることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究全体の目的である母親の高脂肪食摂取が次世代のPaneth細胞の発達や腸内環境制御に与える影響の解明のうち、令和2年度はまず、母親の高脂肪食摂取によりPaneth細胞が発達異常になることを示した。子の小腸を蛍光免疫染色後、透明化処理し共焦点レーザー顕微鏡で3次元画像を取得することで、高脂肪食摂取の母親由来の子において未熟な細胞質顆粒をもつPaneth細胞の割合が多いこと、腸上皮幹細胞数が減少していることを明らかにした。 また、母親の高脂肪食摂取が子のPaneth細胞を含む小腸上皮の発達に与える影響を解析するため、6週齢の小腸組織を用いて遺伝子発現解析を行うと、腸上皮細胞の統合性や機能を示すマーカー遺伝子群の発現異常を認めた。 さらに、母親の高脂肪食摂取が子の腸内細菌叢へどのように影響するかを前段階として、母親自身の腸内細菌叢の解析を行うと、高脂肪食摂取の母親は通常食摂取の母親とdysbiosisが生じていることが明らかになった。 以上の結果は、母親の高脂肪食摂取により子のPaneth細胞の顆粒が未熟になるというPaneth細胞の発達不全を引き起こし、小腸上皮細胞の統合性が保たれなくなっていることを明らかにしたものであり、腸内環境に悪影響が及ぼされていることが強く示唆される。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度は母親の高脂肪食摂取が子のPaneth細胞の腸内環境制御機能であるα-defensinの分泌にどのように影響を及ぼすかを明らかにする。Paneth細胞の発達不全がα-defensin分泌量にどのように関与するか解明するために、高脂肪食摂取の母親由来の子と通常食摂取の母親由来の子の糞便を回収し、糞便中のα-defensin量を測定する予定である。さらに、令和2年度で明らかにした母親の腸内細菌叢に加え、子の腸内細菌叢への影響を解析するために、16S rRNAメタゲノム解析により腸内細菌叢の組成および全体像を明らかにする予定である。
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