研究課題/領域番号 |
20J11535
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
CHUNG PUI YUEN 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | piRNA / nuage / P-body |
研究実績の概要 |
piRNAの産生に必要なタンパク質因子、piRNA因子の多くは核膜のまわりにみられるnuageと呼ばれる細胞内構造体に局在する。カイコ細胞において、piRNA結合タンパク質であるSiwiは、普段の定常状態ではnuageに局在していますが、標的切断ができなくなった変異体ではpiP-bodyに誤って局在することを去年の研究で明らかにした。piRNA因子の誤局在によるpiRNA生合成への影響を調べるため、PIWIタンパク質BmAgo3とSiwiの切断変異体、またはATPase活性を失ったnuageコア因子BmVasaの変異体の発現によるpiRNAの性質変化について解析を行なった。その結果、Siwi slicer変異体を過剰発現させた細胞は、通常だとほとんど合成されない成熟mRNA由来のpiRNAが顕著に増加したことを判明した。一方で、トランスポゾン由来のpiRNAの減少は認めなかったことから、Siwi変異体の発現によるpiRNA生合成への影響は限定的であり、piRNA前駆体の選別精度にのみ影響したと結論付けた。この現象の分子メカニズムを調べた結果、Siwi変異体は複数の関連因子のP-bodyへの局在量を増加させたことが分かり、nuageまたはミトコンドリア外膜上のpiRNA前駆体選別因子も同じようにP-bodyにある凝集体に巻き込まれ、結果的にP-bodyに局在する成熟mRNAがプロセスされたと推論した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度はカイコpiRNA生合成経路において新規反応場であるpiP-body(piRNA因子やP-bodyの構成因子が共存する非膜性RNA凝集体)の同定に成功し、高解像顕微鏡を用いてpiRNA関連因子またはその機能変異体の細胞内動態を定量的手法と情報学的アプローチを駆使し、piRNA経路の細胞内区画化の生物学的意義に関する非常に興味深いデータを得ることが出来た。上記の研究結果を論文にまとめ、EMBO Reports誌にアクセプトされた。一方、新規反応場piP-bodyまたはnuageの顆粒内内容物は未だ不明である。これらの内容物の調査についても、既に複数の試験系の開発に積極的に取り組んでおり、試験・解析段階まで展開したことから、計画以上に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
piP-bodyとnuageは外膜がないため、単離して内容物を同定することは極めて困難である。そのため、顆粒形成の足場となるpiRNA関連構造体の全貌は未だに解明されてない。この問題を解消するには、Fluorescence-activated particle sorting (FAPS法)というフローサイトメトリーを基づいたRNA顆粒単離法を用いて、純度の高いnuageやpiP-body顆粒を単離し、質量分析とRNA-seqで解析する予定である。従来のプロトコールだと細胞デブリと思われる物質が多く精製され、標的のnuage顆粒は確認出来たものの、下流解析に必要な量は回収できなかったため、今後は超遠心法及び勾配遠心法を検討し、またはRNA顆粒内内容物の同定に開発された他のアプローチを検討する。
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