以下に本年度の研究において得られた知見をまとめる。 (1)インテイン反応を利用した大腸菌体内環状scFv調製法を用いてTrastuzumab由来の環状scFv(Tras-scFv)を調製した。本手法で調製した環状scFvは連結部分に新たなシステイン残基が導入される。このシステイン残基を利用してscFvの欠点である抗原結合価数の減少による抗原結合力の低下を補うために、チオール反応性の官能基を持つ架橋剤を用いて環状Tras-scFv二量体を調製した。表面プラズモン共鳴(SPR)測定の結果、環状Tras-scFv単量体と比較して、環状Tras-scFv二量体はavidity効果により抗原結合力が向上していることを確認した。 (2)環状scFvの保存安定性および血中滞留性の向上を目指し、環状Tras-scFv中のシステイン残基に対して様々な分子量の直鎖型および分岐型PEG鎖を部位特異的に修飾したPEG化環状scFvを調製した。Trastuzumab-HER2複合体立体構造から、PEG修飾部位はscFvの抗原認識部位とは反対側に位置することを確認したため、PEG修飾は環状scFvの抗原結合活性に影響を与えないと予想した。実際にSPR測定による解析を行った結果、PEG修飾による抗原結合活性の大幅な低下は確認されなかった。続いて、保存安定性に関して検討した結果、PEG修飾により耐熱性および凍結乾燥後の溶解性が有意に向上することが明らかとなった。また、健常マウスを用いた体内動態解析を行った結果、PEG修飾による分子量増大に伴い、環状Tras-scFvの消失半減期が最大で15倍延長した。
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