本研究では、マカクサル脳卒中モデルにおけるミクログリア/マクロファージが機能回復にどのような影響を及ぼすかを調べると同時に、脳卒中後運動障害に対するミクログリア/マクロファージ活性化阻害薬であるミノサイクリンの有用性を検証することを目的としている。実施状況を以下に示す。 1. サルモデル作製:マカクサル 2 頭を対象に、内包後脚手領域に血管収縮作用を有する薬剤であるエンドセリン-1 を注入し、限局した梗塞を作製した。これら 2 頭は後にミノサイクリンを投与個体として扱う。 2. ミノサイクリンの投与:梗塞作製後24 時間以内に経口で投与を実施した。1 回の投与量は 10 mg/kg、投与回数は 1 日 1 回とし、ミクログリア/マクロファージの炎症応答が認められた梗塞後 3 週間投与を継続した。 3. 行動学的評価・解析:リーチング課題を実施した。シリンダーからイモ片を把持する課題を1 日20 トライアル週3 回実施した。また、評価期間は投与期間と同様に梗塞後 3 週間とした。課題実施時に撮影した動画を基に成功率をコントロール個体との間で比較した。投与個体はコントロール個体と比較して回復が認められた。 4. 組織学的解析:運動機能回復評価実施後、投与個体 2 頭の脳を摘出し、凍結組織切片を作製後、免疫組織化学的手法を用いて種々のマーカー (CD68、CD86、CD206) の発現量変化を調べた。その結果、コントロール個体と比較して梗塞領域において CD86 の発現量低下を認めた。一方で、CD68、CD206 の発現量変化は認められなかった。以上の結果から、ミクログリア/マクロファージによる炎症応答は運動機能回復を阻害する因子になる可能性が示唆された。さらに、ミノサイクリンは M1 型ミクログリア/マクロファージの発現を特異的に抑制することで運動機能回復に効果的であることが分かった。
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