研究課題/領域番号 |
20J11585
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
福井 大和 東京大学, 大学院医学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | 胚着床 / 胚浸潤 / エピジェネティクス / Ezh2 |
研究実績の概要 |
本研究では、マウスを用いて着床の過程におけるDNAメチル化およびヒストン修飾によるエピジェネティックな子宮および胚盤胞の転写の制御機構の着床への関与を明らかにすることを目的としている。 本年度は①子宮特異的Ezh2欠損マウス(Ezh2 uKOマウス)を用いた研究、②子宮内膜上皮または子宮間質特異的STAT3欠損マウスを用いた研究を行った。 ①について、Ezh2 uKOマウスにおいて、胎仔数は約1/4に減少した。妊娠の各過程を検討し、day 8において着床数には差を認めなかったが、胚の状態を評価すると、正常な経過を認める胚は約1/4にとどまった。次にday 6において胚浸潤の状態を免疫組織染色、蛍光免疫染色などを用いて検討したが、Ezh2 uKOマウスではcrypt形成の異常あるいは胚の位置異常を認め、同時期に通常では消失する子宮内膜上皮が約3/4の着床部位で残存していた。この時点で妊娠転帰の表現型と同等の異常を示していると考えられ、子宮においてEzh2は胚浸潤の過程に非常に重要な役割を担っていることが示唆された。また、H3K27me3抗体を用いたマウス子宮組織からのChIP assayの系を確立し、ChIP sequenceを施行した。今後結果の評価を行う予定である。 ②について、LIFはマウスの胚着床に必須のサイトカインであり、ヒト着床期においても子宮内膜に分泌される。LIF-LIFR-STAT3 pathwayはエピジェネティックな転写制御に関わることが報告されており、STAT3のマウス胚着床に与える影響を、遺伝子改変マウスを作成して分析した。STAT3は子宮内膜上皮では着床前の子宮管腔上皮におけるslit-like structure形成、子宮間質では子宮内膜のエストロゲン反応性や子宮管腔上皮細胞増殖の調節と、それぞれ異なる役割で胚着床に必須な分子であることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、遺伝子改変マウスを用いて、着床の過程におけるDNAメチル化およびヒストン修飾によるエピジェネティックな子宮および胚盤胞の転写の制御機構の着床への関与を明らかにすることを目的としている。本研究員はH3K27me3を制御するポリコーム複合体構成因子であるEzh2に着目し、子宮特異的 Ezh2 欠損マウス(Ezh2 uKOマウス)を用いて、ヒストン修飾、そのヒストン修飾が胚や着床に与える影響を解析した。2020年度の研究から上述のようにEzh2 uKOマウスは産仔数が減少し、胚浸潤に異常を認めた。また、H3K27me3抗体を用いたマウス子宮組織からのChIP assayの系を新たに確立し、Ezh2 uKOマウス着床部位組織のChIP sequenceを施行した。この結果や、別途施行していたRNA sequenceの結果などを合わせてマウス胚着床においてEzh2が制御している遺伝子を特定し、胚着床におけるヒストン修飾によるエピジェネティックな子宮の転写制御機構の解明を目指している。 また、上述のように、エピジェネティックな転写制御に関わることが報告されているLIF-LIFR-STAT3 pathwayのSTAT3がマウス胚着床に与える影響を、遺伝子改変マウスを作成して分析し、STAT3は子宮内膜上皮、子宮間質においてそれぞれ異なる役割で胚着床に必須な分子であることを示した。今後は他の遺伝子が胚着床に与える影響の研究も進める予定である。 総じて、この一年間の研究成果としてはおおむね期待通りの進展が得られたものと評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
子宮特異的 Ezh2 欠損マウス(Ezh2 uKOマウス)の分析から、子宮においてEzh2は胚浸潤の過程に非常に重要な役割を担っていることが示唆された。以前の報告で、Ezh2は細胞周期に関与するRb1遺伝子と複合体を形成して遺伝子発現調節を行うとされている。本研究員らは子宮特異的Rb1欠損マウスを解析し、胚浸潤障害、胚接着後の子宮内膜上皮の残存を認めた。Ezh2 uKOマウスの表現型と一部類似しており、Rb1とEzh2との関連性という観点からの解析を追加する予定である。2021年度は、胚浸潤の異常は、着床前後どの過程に起因したものなのか、Ezh2はどの遺伝子をエピジェネティックに調節することで胚着床を制御しているのか、免疫組織学的解析、mRNAレベルの解析、ホルモン値の測定、RNA sequence、ChIP sequence、胚着床時の子宮の形態学的解析など様々な分子生物学的手法を組み合わせることでその機序を明らかにする。 次に、LIF-LIFR-STAT3 pathwayがエピジェネティックな転写制御に関わることが報告されているが、2020年度はSTAT3のマウス胚着床に与える影響に関する研究を、遺伝子改変マウスを用いて行った。2021年度はこのpathwayの中にあるLIFRの遺伝子改変マウスを用いた実験を進める予定である。子宮内膜上皮特異的LIFR欠損マウスは胚着床が起こらず不妊となった。今後胚着床の異常の原因に関して、免疫組織学的解析、mRNAレベルの解析、胚着床時の子宮の形態等に着目した解析を行い、胚着床におけるLIFRの役割を明らかにする。
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