本研究は、子宮および胚盤胞におけるヒストン修飾などのエピジェネティックな転写の制御機構の胚着床への関与を明らかにすることを目的としている。H3K27me3における重要な分子として知られるEzh2を子宮特異的に欠損させたマウス(Ezh2 uKO)を用いた研究を行っているが、昨年度までの研究で、Ezh2 uKOマウスにおいて、胎仔数は約1/4に減少し、day8で着床障害、day6で胚浸潤異常をきたしていることが明らかになっていた。 本年度の研究では、胚浸潤過程における着床部位3次元構造の可視化や、day6における着床部位のRNA-seq、ChIP-seqを行った。これらの実験等から、Ezh2 uKOではimplantation chamberの形成異常を伴う胚浸潤異常をきたし、脱落膜化過程の子宮内膜間質の細胞周期と終末分化の異常により、脱落膜形成不全が起こると考えられた。また、ヒト子宮内膜組織を用いたRNA-seqではPRC2およびH3K27me3の経路が着床障害の病態と関連している可能性が示唆された。マウス、ヒトいずれの研究からも子宮内膜のEzh2やH3K27me3に関連する分子群が胚着床に重要な機能を持つことが示唆される結果となった。 また、昨年度に引き続き、LIF-LIFR-STAT3 pathwayに関する研究を行い、子宮内膜上皮のLIFRは子宮管腔構造変化を介した胚接着の調節に必須であり、子宮内膜間質のSTAT3は子宮内膜間質のLIFRとは別の制御により胚接着に関与することが示された。本研究により、LIFが子宮内膜上皮のLIFRを介して胚接着を制御していることが明らかとなった。さらに、ヒト検体、マウスを用いた別の研究から、子宮頸部でのLIF発現の上昇が、子宮内膜胚受容能を計る指標として、子宮内膜組織検査の代用の一部となる可能性を示した。
|