石油資源の枯渇や地球温暖化への懸念から、バイオマス資源である多糖類を高分子材料として用いる誘導体化研究が盛んである。しかし、従来の多糖材料の合成プロセスでは、多糖の抽出工程や化学修飾工程で多量の化学薬品を用いるために環境負荷が大きいという課題があった。そこで本研究では、生体内のような穏和な条件で反応を触媒する酵素に着目し、強酸や有害な有機溶媒を用いることなく穏和な条件でフィルムや繊維、接着剤等の高分子材料を創製することを目的とした。また、酵素の基質特異性を利用して主鎖骨格や置換度、置換位置を厳密に制御することで、結合様式や主鎖骨格、結晶構造が諸物性に与える影響を調べ、低環境負荷かつ高機能な高分子材料の創製を目指し、研究を行ってきた。本年度では前年度から引き続き、合成した多糖誘導体の各種物性の評価を行った。特に、光学物性についての評価を中心に研究を進めるとともに、これまでに調べてきた物性や機能について、延伸などの高次構造制御を用いることで更なる向上を試みた。また、合成した各種材料について、X線回折測定を行うことで、それぞれの高分子鎖の結晶構造解析を行い、結晶構造や結晶化度等が材料の物性に与える影響を調査した。さらに、前年度までに確立したプロセスである湿式紡糸法について、より穏和かつ健康影響の少ない溶媒であるイオン液体を用いることでより環境や人体に低負荷なプロセスでの再生繊維作製プロセスの構築を試みた。
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