研究課題/領域番号 |
20J11607
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研究機関 | 東京大学 |
特別研究員 |
吉崎 れいな 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | 微細加工 / レーザ加工 / 超短パルスレーザ / 透明材料 / ガラス / 光物性 / 微細穴加工 |
研究実績の概要 |
半導体パッケージやバイオチップ製作のためにガラスにおける高能率・精密に微細三次元加工技術が必要である.加工技術の中で,特に微細性と加工の簡便性に優れた超短パルスレーザ(USPL)加工が注目を集めているが,加工能率に問題がある.我々が開発した過渡選択的レーザ加工法(TSL)ではUSPLによって生成した電子励起領域にガラスを透過する波長の低強度な連続波(CW)レーザを選択的に吸収させることで加工能率を飛躍的に増大した.ただし,加工メカニズムは明らかになっていなかった.本研究ではTSL加工メカニズムを紐解き,応用することで微細かつ高速な透明材料の新規三次元加工法を開発する. 加工の高速観察からTSL加工には加工初期過程と進展過程が存在することが示唆された.初期過程にはUSPLによる電子励起,進展過程では温度上昇が吸収率の増大の由来であるという仮説を立て,異なる硝材を用いて仮説検証を進めた.まず合成石英ガラスにおいて加工開始の閾値を実験で求め,電子励起計算シミュレーションで議論することで加工初期過程において電子励起への線形吸収が支配的であることを明らかにした.次に無アルカリガラスで,CWレーザのみでガラスを加熱する実験で,加工進展が温度上昇による吸収率の増加によるものであることを示した. 解明された加工メカニズムを応用して,三つの新規加工法を開発した.一つがTSL加工中にCWレーザのみを走査することで50 mm/s程度で深さ200 μm,幅10 μm程度の溝を加工する高速溝加工法である.二つ目が二つのレーザを分岐照射することによる並列TSL加工法で,加工能率を倍増した.三点目がUSPLによって生成したフィラメント状の電子励起のみにレーザを吸収させる超高速微細穴加工法で,穴径7 μm,深さ250 μm以上という非常に微細な穴を55 μs未満のレーザ照射時間で加工することに成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
COVID-19によって実験計画の変更を余儀なくされたため,当初の予定とは研究の方向性に変更があった.しかし研究の方向性は異なるものの,別方面で大きな進展があったために順調の進展しているを選択した. 当初の予定では,ガラスの三次元レーザ微細加工に向けてレーザを用いた積層造形に取り組む予定であった.ただし上半期の実験活動に大きな制限がかかったため,積層造形システムの構築には至らなかった.替りに,上半期にガラスの局所加熱加工に関するシミュレーションに取り組み,原著論文がアクセプトされた.下半期は精力的に実験に取り組み,ガラスの微細深穴加工と三次元除去加工について成果を得た.三次元除去加工の成果については来る6月に国際学会発表を行う予定である.
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今後の研究の推進方策 |
超短パルスレーザによる電子励起のみへのレーザ吸収によって,従来では加工しえなかった微細かつ高アスペクト比な穴を高速に加工することができるようになった.今後は,超短パルスレーザによる電子励起の形状を空間光変調技術によって制御することで,穴加工以外の形状に微細加工を発展させることで,微細除去加工の三次元化を目指す. 提案しているガラスの透明材料積層造形については,今までの選択的加熱メカニズムの検討で問題点が明らかになってきた.提案手法では,レーザを導光したファイバー上のガラスの選択的加熱によって,連続的に溶融したガラスを積層部に供給する予定であった.つまり溶融したガラスを安定して供給する必要がある.しかし調査によって,ガラスの吸収率はガラスの軟化点付近から急増していくために,透過波長レーザによるガラスの選択的加熱を行った場合に,レーザの吸収される点において溶融状態から急激に気化することが明らかになってきた.つまり溶融したガラスを安定して供給するには,この急激な気化の問題を解決する必要がある. この問題の解決方法として,二つの方法が考えられる.一つが適切な硝材の選定,二つ目がレーザ照射方法の検討である.一つ目については軟化点より低温からゆるやかに吸収係数が増大するような,提案手法に適したガラスを選定する方法である.二つ目が溶融ガラスを安定供給するような工夫をする方法である.一案として,材料を光ファイバーのような構造をもったガラスにすることで,レーザを吸収するコア部分と,積層材料として溶融ガラスを供給するクラッド部分に分ける方法などが考えられる.
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