研究課題/領域番号 |
20J11635
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
國光 真生 東京大学, 大学院医学系研究科, 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
|
キーワード | 難治性創傷 / 褥瘡 / 細菌叢最適化 / 皮膚常在細菌叢 / 看護理工学 / リバーストランスレーショナルリサーチ / ドレッシング材 |
研究実績の概要 |
難治性創傷患者において創傷感染は死に至る深刻な合併症であり、その予防として抗菌薬や消毒薬を用いて創部上の細菌の死滅させるケアが日々実施されている。しかし、難治性創傷は常に外部の細菌に曝露していることから、ケアによる細菌数低減効果は持続せず、創傷感染を完全には制御できていない。そこで、細菌を死滅させるのではなく、創部上に存在する細菌のコミュニティ、つまり創部細菌叢を創傷治癒に向けて最適化する新たな介入方法の確立を目指す。本研究は、創部細菌叢が創傷感染を発生させるメカニズムを解明することを目的とする。 近年の細菌叢研究の増加に伴い、創部細菌叢が治癒遅延に関与するという考え方が定着し始めた。その一方、難治性創傷の創部細菌叢は個人差が大きいため、治癒遅延を惹起する細菌叢は特定できておらず、最適化するための介入ターゲットは明らかでない。そこで、2020年度は褥瘡患者の細菌叢の調査データに基づき、創部マイクロバイオーム制御における介入ターゲットについて検討した。申請者はこれまでの研究において、褥瘡患者では創周囲皮膚などの外部環境と褥瘡創部間で細菌伝播が起きていることを明らかにした。このことから創部細菌叢の由来と考えられる創周囲皮膚に着目し、創部と創周囲皮膚間の細菌叢類似性と治癒傾向との関係について検討した。皮下組織に至る重度褥瘡保有患者から、創部と創周囲皮膚の細菌叢サンプルを採取し、メタ16S解析に供した。その結果、細菌叢の類似性を示すβ多様性指標であるWeighted UniFrac dissimilarity index が感染創を含む難治性褥瘡では0.60、治癒傾向褥瘡では0.28であり、難治性褥瘡の方が低い細菌叢類似性を示す可能性が高いことが明らかになった。この結果から、創周囲皮膚との類似性が低い創部細菌叢が細菌叢最適化の介入ターゲットになりうると考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度は、創部細菌叢の由来である創周囲皮膚に着目し、褥瘡患者の細菌叢を調査した。創周囲皮膚の細菌叢と類似性が低い創部細菌叢が治癒遅延と関連することを明らかにし、これまで特定できていなかった治癒遅延を惹起する創部細菌叢について新しいコンセプトを示した。これにより、創部細菌叢の最適化に向けた介入ターゲットを提示することができた。これは、創部マイクロバイオームの制御方法の確立に向けたベースとなるアイデアであり、これ以降に続くメカニズム解明に向けた研究の基盤が構築できたことから、おおむね順調に経過していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
創周囲皮膚の細菌叢との類似性が低い創部細菌叢が治癒遅延と関連することが示されたため、次段階としてその細菌叢を模したIn vitroおよびIn vivoモデルを確立し、それらを用いて創傷感染発生メカニズムについて細菌叢の観点から検証を進める。
|