研究課題
臨界的定着では組織への細菌侵入に対する免疫反応が起きているが、肉眼的な感染徴候がないために致死的な感染に移行する可能性が高い。本研究課題では、臨界的定着を予防するための創部細菌叢をターゲットにした新たな介入方法の確立を最終目標とする。昨年度は、臨床データから臨界的定着では創周囲皮膚との類似性が低いディスバイオシス状態の創部細菌叢が形成されている可能性が高いことを明らかにした。そこで、本年度はディスバイオシス状態の細菌叢の移植により臨界的定着創を模した動物モデルの開発、および同モデルを用いたメカニズム解明実験に取り組んだ。動物モデルはラットから採取した皮膚常在細菌叢を嫌気培養し、別個体の創部へ移植することで作製した(ディスバイオシス群)。コントロールは細菌を含まないLB培地を用いた(常在細菌叢群)。その結果、全症例で肉眼的な感染徴候を認めなかったが、常在細菌叢群と比較してディスバイオシス群では好中球の浸潤が多く、創傷治癒が遅延した。さらに、ディスバイオシス群の肉芽組織では炎症抑制的に機能する制御性T細胞が少なかったため、制御性T細胞の抑制実験を実施した結果、非抑制+常在細菌叢群と比較し、抑制+常在細菌叢群、非抑制+ディスバイオシス群、抑制+ディスバイオシス群では肉芽組織への好中球の浸潤が多く、治癒が遅延した。以上より、常在細菌叢の創部では制御性T細胞を介して過剰な炎症が抑制され、正常に治癒するのに対し、ディスバイオシス状態の細菌叢の創部では、制御性T細胞が少ないことにより過剰な炎症が抑制されず、その結果臨界的定着が引き起こされていることが示唆された。これまで創部細菌叢と制御性T細胞の関連を示した研究はなく、本研究は新たな臨界的定着予防介入の確立に大きく貢献すると期待される。今後は本研究プロジェクトを発展させ、創部細菌叢を制御するケアプロダクトの開発と評価を行う予定である。
令和3年度が最終年度であるため、記入しない。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 5件) 備考 (1件)
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