研究課題/領域番号 |
20J11699
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
田中 友晃 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 先端機能材料研究部, 博士研究員
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | 超伝導 / 薄膜 |
研究実績の概要 |
本年度は単層FeSe/Fe/STOの作成およびその原子構造・超伝導状態の測定を行った。以下にその詳細について報告を行う。 まず、単層FeSe/Fe/STOの作成・評価について述べる。STO基板上に単層FeSeを作成し、900度で加熱しながらSeエッチングを行うことでFe-√5×√5超周期構造をSTO基板上に作成した。この超構造について走査トンネル顕微鏡(STM)を用いて観察し、Fe原子が√5×√5周期に配列していることを確認した。その後この試料上に単層FeSeを蒸着し、STMを用いて原子構造を、走査トンネル分光法(STS)を用いて電子状態を測定した。 STM観察では、STO上の単層FeSeと同様にレイヤーバイレイヤー成長した薄膜が観察された。原子レベルでの測定では、格子定数0.39nmの正方格子が見られた。これは界面にFeを含まない単層FeSeの格子定数と同じであり、FeSe薄膜が成長していることが分かった。STO上の単層FeSeではSTOの電子状態の周期がFeSeを介して観察されるため、このサンプルではFeの超周期構造(√5×√5)が観察されると期待していたが、予想に反して1×1のみが観察された。 STS測定ではフェルミ準位近傍の電子状態密度を測定した所、超伝導ギャップは観察されなかった。また、電子状態測定の空間マッピングを行ったが電子状態の界面のFeに対応した周期的な変化は見られなかった。 これらの結果から、Fe/STO上への単層FeSeの作成は成功した一方、期待していた界面のFeの影響はSTM/STS測定共に観測できなかった。界面のFeによる周期的な電子状態の変化が観察できなかったことから、FeSe作成後にはFeの超構造は失われたと考えられる。その要因としてFeSe作成時にその一部になったと推察される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度の研究は実施計画の通りに進行している。しかしながら、界面に作成したFe超構造が単層FeSe蒸着時にその一部として取り込まれてしまい、マヨラナ超格子の作成には不適切であると考えられる。そのため、今後の研究の推進方策を変更する必要があり、この点から"やや遅れている"と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究により、界面に作成したFe超周期はFeSeの1部となっており「マヨラナ超格子」形成には至らなかった。そこで今後の研究ではマヨラナ粒子作成の前段階として、その要である単層FeSeの物性探索を行う。 最近の研究で、単層FeSeでは超伝導転移温度より高温側で擬ギャップが発現すると報告された。擬ギャップは銅酸化物超伝導体でも観察されているギャップであり、超伝導発現メカニズムとも密接な関係があると考えられている。擬ギャップが存在するのであればこれまでの報告にあった転移温度が見直されることとなり、鉄系超伝導体の超伝導転移の起源についても新たな知見が得られる。これらはマヨラナ粒子が安定に存在できる温度や、応用にかかわる点から重要である。そこで、本年度はこの系における擬ギャップの有無に着目し研究を行う。 具体的な研究計画としては、STO上に単層FeSeを蒸着した後に(1)角度分解光電子分光(ARPES)により超伝導ギャップとその温度依存性を測定し、同じサンプルについて(2)電気伝導測定を行い超伝導転移温度を調べる。ARPES測定では超伝導ギャップの温度依存性を元に転移温度を推定し、電気伝導測定ではIVカーブを元に転移温度を決定する。擬ギャップが存在する場合はARPESから得られた転移温度が電気伝導によるものより高くなるため、得られた結果を元に擬ギャップの有無について議論を行う。
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