研究課題/領域番号 |
20J11740
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
藤原 比呂 九州大学, 工学府, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | アルミニウム合金 / 水素脆化 / 水素拡散解析 / 結晶塑性有限要素法 / X線トモグラフィー |
研究実績の概要 |
本研究では,局所的な水素の濃化により発生すると考えられる水素脆化の発生基準を水素濃度の観点から明らかにすることを目的としている。 水素脆性破壊の発生挙動と水素濃度分布との関係を評価するため,結晶塑性有限要素解析(CPFEM)と水素拡散シミュレーションを組み合わせた解析環境の構築を行い,解析を実施した。その際,引張試験を実施した試料から作製した3次元(3D)結晶粒モデルを用いた。加えて,同一試料の変形・破壊挙動をX線マイクロトモグラフィーによりその場観察することで,擬へき開亀裂の発生点および進展経路を特定した。一般に亀裂先端などの高い静水圧応力場へ水素は拡散し濃化することが知られている。本研究では,擬へき開亀裂発生直前ですでに発生していた粒界亀裂を含むモデルを作製し,このモデルに対して解析を行うことで亀裂先端への水素の集積挙動を評価した。 実験とCPFEMのそれぞれによって得られた3D塑性歪み分布を比較することで,CPFEMにより塑性歪みの分布が正確に再現されることを確認し,入力パラメーターを校正することでCPFEMの精度を向上させた。これらのミクロ的な比較に加えて,引張試験およびCPFEMにより得られた公称応力-公称歪み線図を比較し,マクロな応力,歪みの関係はCPFEMにより再現できていることを確認した。 変形により一部の水素トラップサイトが増加し,これらも水素の拡散に影響を及ぼす。CPFEMから得られた応力,相当塑性歪みの3D分布を用い,変位を与えた後の静水圧応力勾配およびトラップサイト密度(空孔濃度・転位密度)を計算した。これらの分布を考慮し,与えた変位を保持した際の水素濃度分布の変化を解析した。その結果,亀裂先端近傍で水素が濃化する様子を定量的に評価し,最大で初期水素濃度の2.3倍となることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アルミニウム合金を含め金属材料の水素脆性破壊の発生条件を解明するためには,水素脆性破壊の発生点における水素濃度の定量的な評価が不可欠である。しかしながら,これまでに報告されている応力下の水素濃度分布変化の定量的な解析は簡易的なモデルを用いたシミュレーションによるものであり,実際の水素脆性破壊の発生と水素濃度の関係を直接評価することはできてない。このような背景の中で,結晶塑性有限要素解析(CPFEM)と水素拡散シミュレーションの連成解析をイメージベースで行うために,回折コントラストトモグラフィー(DCT)法で取得した3次元情報をもとに作製したモデルを用いることで,これまでにない高度な計算手法として確立した。また,X線マイクロトモグラフィーにより取得した脆性亀裂の発生・進展に関する情報を解析モデルと組み合わせることで,実際の亀裂を含む解析モデルを作製することに成功した。これにより,水素の集積がより顕著となる亀裂先端での水素濃度変化を解析できる手法へと発展させることに成功した。加えて,CPFEMにより取得した情報をもとに変形によるトラップサイト(空孔・転位)の増加を見積もり,水素拡散解析に反映することでより高度な解析手法へと発展させることに成功した。以上のように,3次元的な情報から得られる全ての情報を確実に用いることで,より実態に即した水素濃度変化を評価できる連成解析手法を確立することができた。解析方法などにいくつかの検討課題が残るものの,おおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
脆性亀裂発生領域における応力下での水素拡散挙動について,結晶塑性有限要素解析(CPFEM)と水素拡散シミュレーションを組み合わせた連成解析手法により得られた解析結果を詳細に評価する。そして,粒界亀裂から擬へき開亀裂へ遷移する領域の各トラップサイトの水素濃度を定量的に評価することで,析出物/アルミニウム母相界面にトラップされる水素の擬へき開破壊発生への影響を評価する。その際,これまで考慮していなかった変位保持中の空孔の減少など,考えうるすべてのトラップサイトの挙動をモデル化し水素拡散解析に取り入れることで,より高度な解析手法として拡張し解析を実施する計画である。 また,水素チャージ条件やミクロ組織を変えることで,材料内在水素量やトラップサイトなどの条件を変化させた試料を試作し,追加実験および水素濃度分布解析を行う。これにより,水素脆性破壊の発生と水素濃度との関係をさらに調査することで,実際の水素脆性破壊の発生基準の高精度化を試みる。そして,これまでに報告されている水素の濃化により発生する結晶粒界や析出物/アルミニウム母相界面での自発的な剥離挙動やこの挙動により生じると考えられる粒界破壊や擬へき開破壊の発生との関係を検証する。 取得したすべての情報をもとに,水素脆性破壊の発生に対する抑制手法を探索することで,高強度と耐水素脆性を両立できる高力アルミニウム合金の開発への指針の確立を目指す。そして,確立した実際の試験片をもとにしたシミュレーションベースの水素濃度分布変化の評価手法について,水素脆性破壊の発生起点での水素濃度の4次元(3次元+時間)解析など得られた結果を取りまとめ,学会発表および論文投稿により積極的に対外的に公表する予定である。
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