研究課題/領域番号 |
20J11762
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大岡 紘治 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | 自由エネルギー地形 / 粗視化モデル / フォールディング反応機構 / 天然変性タンパク質 |
研究実績の概要 |
本研究では、タンパク質の粗視化モデルであるWSMEモデルの拡張により、自由エネルギー地形に基づくタンパク質のダイナミクスの記述を目指している。特に、天然変性タンパク質のフォールディングと結合を統一的に扱うモデルの確立を目的としている。 天然変性タンパク質であるc-Mybの転写活性化ドメインとその標的となるKIXを計算対象とし、結合状態の立体構造情報からタンパク質内及びタンパク質間のコンタクトエネルギーを計算した。これより、それぞれのタンパク質についてWSMEモデルを適用しパラメータの検討を行った。現在、天然変性タンパク質の結合とフォールディングにおける自由エネルギー地形を計算するために、タンパク質間相互作用に対し相互作用項を導入した拡張型モデルを構築している。また同時に従来のモデルの厳密解の解法を改変した計算手法及び計算プログラムを構成している。 さらに本研究はタンパク質への変異導入による結合強度の変化を、結合における自由エネルギー地形の観点から予測すること目指している。この自由エネルギー地形を用いたタンパク質の変異体デザインの予備的な研究として、リゾチームとαラクトアルブミンについてフォールディング経路の決定に重要なアミノ酸残基の探索を行った。これらのタンパク質は類似した立体構造を有しているが由来する生物種によってフォールディング機構が異なることが知られている。生物種間でエネルギーが大きく異なる相互作用や類似した相互作用を探索し、コンタクトエネルギーを変化させて自由エネルギー地形の計算を行った。その結果より、フォールディング経路を解析することで、フォールディング経路の決定に重要なアミノ酸残基が予測された。これは自由エネルギー地形に基づくタンパク質の変異体デザイン手法を確立するための手がかりとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
天然変性タンパク質のフォールディングと結合の自由エネルギー地形を計算するモデル構築が進んでる。さらに並行して分配関数の計算手法及び計算機によるプログラムの構成が進んでいる。 またタンパク質の変異体デザイン手法につながる研究として、具体的なタンパク質について変異体の自由エネルギー地形を計算し、フォールディング経路への影響を見積もることができた。
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今後の研究の推進方策 |
c-Mybの転写活性化ドメイン及び結合相手となるKIXについて、WSMEモデルを用いたパラメータの検討の結果から、タンパク質間相互作用が導入された複合体モデルの最適化を行う。そこから自由エネルギー地形及び構造形成度を計算し、フォールディングと結合の反応経路を同定する。これらの解析結果を実験により得られている結合メカニズムと比較することでモデルの検証を行う。 さらに自由エネルギー地形に基づく、c-Mybの転写活性化ドメインとKIXの結合を強める変異体のデザインを行う。結合に関与するアミノ酸残基間の相互作用を変化させて疑似的に変異を導入し、それぞれの変異について、野生型との自由エネルギー地形の変化を調べる。さらに得られた地形から遷移状態理論を用いて結合定数を導出し、結合を強めるような変異を予測する。 次に、理論的に結合が強まると予測された変異体の候補を実際に作製し結合を測定する。大腸菌を形質転換しc-Mybの転写活性化ドメインあるいはKIXの変異体を発現させる。精製したこれらのタンパク質についてITC等の実験装置を用いて結合強度を測定する。実験により得られた結果から複合体モデルによる変異体デザインの妥当性を検証し、得られた知見をもとにモデルの改良を行う。 複合体モデルの構成、計算方法及び具体的な対象での計算結果について学会発表を行い、論文を作成する。
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