本年度は、秋台風の発達をもたらす黒潮の遠隔影響に関して、黒潮の海面水温変動の観点から解析を行った。2010年台風14号を対象として、黒潮の海面水温を観測値に対して昇温・降温それぞれ0.5度と1度変える4パターンの数値実験を雲解像領域気象モデル(CReSS)を用いて水平解像度4kmの高解像度で実施した。シミュレーションの結果、黒潮の海面水温に応じて黒潮から遠く離れた台風の強度や中心付近の降水量・風速が大きく変化することが判明した。具体的には、黒潮の海面水温が2度異なると中心気圧は約25hPaの差に達し、黒潮の海面水温がより高温な状態であればあるほど、強い台風の特徴である「壁雲」も一層明瞭となっていた。これらの違いは、黒潮の海面台風への水蒸気流入量の増減と良い対応を示していた。さらに流跡線解析は、黒潮の海面水温変動が黒潮を経由して台風内部へ流入する空気塊の気団変質プロセスを劇的に促進・抑制することで、台風への水蒸気輸送をコントロールしていることも判明した。同様な結果は2020年台風14号に対する解析でも得られており、日本に接近・上陸する秋台風の強度変化プロセスに対する黒潮の能動的役割の重要性を強調する。一連の研究成果は、国際学術誌(Journal of Geophysical Research: Atmospheres)から出版された。 近年、黒潮では平年よりも高温な状態が持続している。その黒潮の高温傾向が本研究で示された黒潮の遠隔影響を介して秋台風の激甚化に寄与している可能性があり、今後更なる研究の発展が望まれる。
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