本研究では、三次元構造をもつ遷移金属錯体の異方的運動性を利用した動的制御可能な機能性材料の開発を行い、三次元的な分子の ”動き” と “構造” から生まれる前例のない新規機能性の開拓を目指している。具体的には、面性キラリティーを有する洗濯バサミ型・渡環型の金属錯体を用いて、その三次元的分子運動に基づく円偏光発光をはじめとした種々の機能性制御を指向した研究に取り組んできた。その結果、本年度は2報の国際誌への投稿、1件の国内学会参加による研究成果の発信をすることができた。 本年の研究実績の具体例として、水車型2核パラジウム錯体のエナンチオ選択的な分子回転制御に関する研究がEur. J. Inorg. Chem.誌に掲載された。柔軟な遷移金属プラットフォームを用いることにより、これまでの剛直な構造を有する分子回転体では困難であった、外部環境による回転運動速度の制御を達成することができた。さらには、キラルな酒石酸誘導体を酸触媒として用いることでエナンチオ選択的な分子回転制御にも成功し、今後は発光性のプラットフォームを用いることで動的な円偏光発光制御などへの応用的展開が見込まれる。また、米国サンノゼ州立大学のGilles Muller教授との共同研究として、渡環型構造を有する白金錯体が金属配位平面の歪みを誘起することで円偏光発光能が制御できることを見出した。本研究成果は錯体化学会第70回討論会にて口頭発表を行い、現在論文投稿準備中である。
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