最初に、本研究はクマノミ類との相互作用によって創出される宿主イソギンチャク共生系の解明を目的とする。本年は、これまで沖縄島、宮古島、石垣島、西表島で集めた、宿主イソギンチャクと造礁サンゴを利用する生物の模様を解析した。その結果、造礁サンゴには、横帯模様を持つ魚類が生息する傾向があったが、宿主イソギンチャクには、横帯模様を持つ魚類は生息しておらず、縦帯模様および無地の魚類が生息していた。また、カクレクマノミの生息する宿主イソギンチャクに、2種類の魚類の模型(黒地に白い横帯と黒地に白い縦帯)を接近させたところ、白い横帯模様の模型に対する攻撃頻度が高かった。クマノミ類は宿主イソギンチャク周辺をテリトリーとして防衛する。また、クマノミ類は白い横帯模様を持つという特徴がある。以上の事から、クマノミ類は色彩パターンにより同種/別種の区別をし、その情報をもとに他種への攻撃あるいは許容の判断をしている可能性がある。今回の研究より、宿主イソギンチャクはクマノミ類以外にも多くの魚類の隠れ場所や採餌場として機能していることが明らかになった。そのため、クマノミ類と宿主イソギンチャクの共生系はその場所の魚類相に影響を与える可能性が示唆された。現在、クマノミ類と宿主イソギンチャクは、埋め立てにより生息地の破壊や海水温上昇などにより個体数の減少が懸念されており、適切な保全政策が必要である。そのためには、クマノミ類の集団遺伝構造を調べ、琉球列島の島嶼間での行き来を知る必要がある。本年度は、奄美大島、沖縄島、宮古島、石垣島、西表島で採取したカクレクマノミの尾びれの一部からDNAを抽出し、集団遺伝構造を解析した。その結果、これらの島嶼間で遺伝的に交流している事が示唆された。クマノミ類の分散能力の高さが明らかになったため、保全を行う上で、クマノミ類が生息できる海岸環境を保全することが重要であると考えられる。
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