研究課題/領域番号 |
20J11855
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
上林 海ちる 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | 原始太陽系円盤 / 難揮発性包有物 / 結晶化実験 / 水素圧 |
研究実績の概要 |
始原的隕石中に含まれる難揮発性包有物 (CAI) は太陽系最古の固体物質であり、一部のCAIは再溶融を受けて比較的揮発性の高い元素 (Mg, Si) の蒸発を経て形成されたことが示唆されており、この蒸発は形成環境の圧力(主に水素圧)に依存するプロセスであるため、形成時の圧力条件について制約を加えられる可能性がある。そこで本研究では、CAI形成を実験的に再現することで、CAIの形成物理化学条件を制約することを試みた。具体的には、CAI模擬メルトを用いて水素圧(PH2 = 10-0.1 Pa)、メルト組成、温度、冷却速度(5-50°C/hr)を系統的に変化させた実験を真空高温炉を用いておこなった。 実験後のサンプルを走査型電子顕微鏡によって観察をおこなったところ、PH2 = 1及び10 Paの実験で得られた一部のサンプルでは、メルトの縁部がメリライトに富むものが観察され、天然のType B1 CAIで見られるメリライトマントルに似た組織を呈した。また縁部のメリライトは出発組成のメルトから結晶化すると予想されるメリライトの組成よりもMgに乏しい組成から、内側に向けてMg濃度が高くなるような組成勾配を示した。 また、2次イオン質量分析計によってサンプルのMg同位体分析をおこなったところ、メリライトマントルが十分に発達している試料のメリライトでは、試料の縁部で内部に比べて重いMgの濃集を示すことがわかった。これは、高い圧力条件下でメルトの蒸発が促進され、拡散による原子分布の均質化よりも速く起こることを示している。その結果、組成分析で示されたように、メルト表面からMgに乏しいメリライトが結晶化し、内側に向かって成長していくと考えられる。このようにタイプB1に見られるメリライトマントルは比較的高い水素圧条件(PH2>1 Pa)でのメルト蒸発の結果として結晶化することが可能である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
圧力をパラメータとしたCAIの再現実験を行ったことで、天然のCAIに見られる組織の違いは異なる圧力条件下での形成の可能性があることが示唆され、そのことからCAI形成場の原始惑星系円盤の圧力条件が1-10 Pa程度であることが制約された。 また2次イオン質量分析計によるMg同位体高精度分析の手法を確立し、サンプルのMg同位体分析をおこなったことにより、CAI形成時の元素の蒸発・メルト内の元素拡散・結晶成長といった複合的な化学過程が明らかになりつつあり、これらの情報からさらなる物理化学的制約を与えられることが期待される。 さらに異なる出発組成からの蒸発結晶化実験にも着手しており、これまでに求められたCAIの形成条件が天然CAIにおいて普遍的であったのかどうかについての考察を加えられることが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの実験サンプルのMg同位体分析によって、メリライトマントルが表面からの蒸発によって形成しうることが直接的に示された。しかし、この実験で見られたようなCAI縁部での重い同位体組成は、実際にいくつかの天然のCAIでは報告されているものの、実際の天然のCAIの中には縁部でより軽い同位体組成を示すものや、全体で均一な同位体組成を示すものも多く、これらに見られる多様な同位体的特徴は単純な蒸発のみでは説明し難い。このことを鑑みて、天然のCAIの同位体分布を再現するような形成条件について検討する。 また得られたCAI形成の圧力条件に加え、これまでの先行研究で求められている温度、冷却率条件を考慮することで、原始太陽系円盤でのCAIの形成モデルを構築する。 また、CAI 形成条件を満たすような原始惑星系円盤の物理条件(質量降着率、乱流粘性係数など) を制約する。
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