初期太陽系円盤の水素圧力条件を推定するため、太陽系最初期に形成された固体物質である難揮発性包有物 (CAI)の組成・組織再現実験をおこなった。 本年度は異なる出発組成からの系統的な実験もおこない、その結果、出発組成に関わらずPH2=10^-4 bar と、PH2=10^-5 barの冷却速度の遅い(5℃ h^-1)実験ではタイプB1 CAIで観察されるメリライトマントルに類似した組織の形成が見られ、PH2 = 10^-6 barと、PH2=10^-5 barの速い冷却速度(>20℃ h^-1)ではタイプB2 CAIと同様にメリライトの場所によらないランダムな分布が見られることがわかった。 またPH2 = 10^-4 bar、1420℃で短時間(~1h)加熱されたサンプルのメルト組成は、メルト表面に向かってMgOが減少しており、これはメリライトマントルの組成分布と整合的であった。得られたメルト組成ゾーニングに対して、表面蒸発を考慮した3次元拡散モデリングを行ったところ、MgOの蒸発・拡散速度が得られ、メルト中の元素拡散に律速された条件での蒸発によってメリライトマントルが晶出することが示された。 本研究の結果からは、タイプB CAI形成時の水素圧力は10^-4~10^-6 barであったことが示された。このことからCAIの形成が原始太陽系円盤の高温領域(>1300K)で、また太陽近傍(~0.1au)で起こったとすれば、質量降着率の低い円盤(~10^-8 Msun yr^-1)、もしくは1Myr以上進化した円盤においてCAI形成のT-PH2条件が満たされることになる。一方で~1 auでCAIが形成された場合、質量降着率の高い円盤(~10^-6~10^-7 Msun yr^-1)、または若い円盤(コア崩壊から1Myr以内)においてCAIが形成されたと考えられる。
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