研究課題/領域番号 |
20J11860
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研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
土井 英生 豊橋技術科学大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | 神経伝達物質 / バイオイメージング / 半導体イメージセンサ / 非標識 / 多孔質膜 / 酵素 / イオノフォア / 酸化還元 |
研究実績の概要 |
nMレベルの検出感度を有する非標識神経伝達物質イメージセンサの実現に向け, 1:アレイセンサ上へ神経伝達物質検出系を構築し,2:神経伝達物質拡散を抑制する構造体を検討した.また,3:神経伝達と相互作用の高いCa2+イオンを可視化するセンサを開発した. 1について,画素ピッチ23.55 umのセンサ上に金/チタン積層膜を形成後,神経伝達物質としてATPを特異的に認識する酸化酵素を,電極上へ容易に固定化可能な高分子膜で固定化した.ATPの可視化実験において,酵素および電子メディエータの存在下でセンサの出力画像が変化し,液中ATPの非標識リアルタイムイメージングに成功した.また,溶液の緩衝濃度が10 mMのような生物的実験下でも従来型より100倍の高感度を実現した(検出限界:3 uM).さらに,酵素の種類を変更することで数100 nMのグルタミン酸の検出にも成功した. 2について,数100 nmのポーラス構造を有する多孔質膜を構造体材料として導入し,空間解像度の向上を図った.また,酵素を簡便にパターン形成可能な光硬化性樹脂を用いて神経伝達物質(ATP,アセチルコリン)の分解酵素をセンシング領域に固定し,構造体の有無による拡散抑制効果を検証した.その結果,構造体有りの場合にのみ,形成した酵素パターンに応じた画像変化の取得に成功し,神経伝達物質拡散の抑制機能を実証した. 3について,特定のイオンを選択的に認識するイオノフォアをイオン認識素子とする画素ピッチ23.55 umのCa2+イメージセンサを製作した.Ca2+計測実験では,10-5 M~10-1 Mの濃度範囲で良好な計測特性を示し,妨害イオンに対する1000倍程度の高い選択性を確認した.海馬スライスを用いた薬剤刺激実験では,海馬の脳部位に沿って細胞外シグナル低下が観察され,細胞外Ca2+低下の可視化に成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
分子認識素子として機能する酸化酵素および電子反応を検出するメディエータ分子を神経伝達物質検出のためのインターフェースとして応用した酸化還元型のイメージングデバイスを新規に提案し,神経伝達物質としてATPおよびグルタミン酸のリアルタイムイメージングに成功した.検出限界はATPで3 uM,グルタミン酸で数100 nMを達成し,生理学実験に向けた高感度型のイメージングデバイスを実証した.また,アレイセンサ上への神経伝達物質の拡散抑制機能の実装に向け,当初の計画では構造体材料としてレジストを用い半導体プロセスを検討したが,光の回折の影響および数umピッチのセンサ画素へのアライメント精度に限界があった.そこで,数100 nmの微細な細孔を有するポーラスアルミナ膜を構造体材料として新たに導入し,アライメント精度の問題を解決した.その結果,事前に固定化した神経伝達物質検出膜の形成パターンに応じた出力画像の取得に成功し,ポーラスアルミナ膜が神経伝達物質の拡散抑制構造体として有用である可能性を示した. さらに,興奮性シナプス伝達における神経伝達物質放出と強い関連性を示すカルシウムイオン(Ca2+)を可視化するイメージセンサの開発に取り組み,バイオイメージングの可能性を検討した.山梨大学医学部 小泉修一教授のご指導の下,脳神経組織を用いた細胞外応答の可視化実験で細胞外のCa2+がダイナミックに低下すること,この応答に記憶や学習に関わるグルタミン酸受容体が強く関与することを明らかにした. これらの研究成果をまとめ国内外に向け精力的に情報発信し,論文化を2本進めている.初年度の研究計画が着実に進展している過程で,イメージセンサ技術を細胞外イメージングに応用し,初歩的ではあるが1年目で新たな知見が得られた点などを踏まえ,当初の計画以上に進展していると評価した.
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に開発した酸化還元型の非標識神経伝達物質イメージセンサを用いて細胞外応答の可視化実験を実施する.神経細胞やグリア細胞などが集積化され,記憶を司る海馬のスライス標本を検出対象とし,興奮性の神経伝達を模倣した薬剤刺激および電気刺激による薬理学的な実験を通じてATP,Lactate, グルタミン酸などの神経伝達物質放出を検討する.各種実験を通じてセンサ性能を検証し,その可否に応じて検出限界,出力感度,選択性の向上を図る.本センサの有用性が確認され次第,開発した酵素パターニング技術ならびに化学物質の拡散抑制構造体と一体化し,複数種類の神経伝達物質を同時に可視化可能なマルチイメージングを実証する.さらに,神経細胞やグリア細胞が細胞外環境の維持および調節に利用し,神経伝達と相互作用の高い主要なK+,Na+,Cl-の動態を可視化するイメージセンサ開発を並行し,バイオイメージングの可能性を検討する.各種センサの開発には,昨年度の感応膜開発(Ca2+)にて実績があり,計測対象を選択的に検出可能なイオノフォアを分子認識素子,母材として可塑化PVCを用いアレイセンサ上に容易に製作可能なイオン選択性感応膜を応用する.濃度依存性,出力感度,選択性などのイオン検出特性の評価を通じて細胞外イメージングへの応用可能性が確認され次第,生理学実験によりイメージングデバイスとしての機能を検証する.続いて,MATLABを用いて神経伝達物質および細胞外イオンの時空間ダイナミクスを解析し,三者間シナプスにおける神経伝達の生理学的意義を考察する. 以上の課題遂行および課題展開を通じて1種類の神経伝達物質を可視化するセンサおよび複数種類同時に可能なセンサが脳の生理的条件下と病態生理的条件下における神経伝達物質および細胞外イオンの時空間解析センサとして有用であることを実証する.
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