研究課題/領域番号 |
20J11883
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
鵜飼 修作 名古屋大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | 反芳香族性 / 集積化 / 電荷輸送材料 / 超分子 / ノルコロール / ポルフィリノイド |
研究実績の概要 |
本研究目的は安定な反芳香族分子ノルコロールを多重積層させることで、反芳香族分子を用いた高速電荷輸送材料を実現すことである。初年度では、ノルコロールどうしの積層に適した置換基を検討した。結果として、メチル基のみでノルコロールを安定化できることを明らかにした。さらに、X線構造解析からメチル基を置換したノルコロールどうしが接近して無限積層していることを明らかにした。マイクロ波を用いて電荷輸送性能を京都大学 関 教授との共同研究により調査したところ、キャリアーは電子でありn型半導体として機能することが明らかとなった。これまで報告されている有機半導体はキャリアーがホールであるp型半導体が圧倒的に多く、n型半導体特性を示す分子は少ないことから、本研究成果は反芳香族性が有機半導体の設計指針となることを示した成果であると言える。さらに、ノルコロールどうしの積層角度や距離を制御できれば電荷輸送特性の精密な制御も可能になると考えた。そこで、水素結合などの非共有結合を利用し、多数のモノマーから形成される周期的な構造体「超分子ポリマー」に着目した。これまで、芳香族分子を用いた超分子ポリマー形成は数多く研究されてきたが反芳香族分子の超分子ポリマーは報告例が無い。実際にアミド基を有するノルコロールを設計・合成し、水素結合を利用した一次元状の集合体形成を実現した。初年度では反芳香族分子ノルコロールの多重積化に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究目的は反芳香族分子の多重積層化、及び電子ドープによる混合原子価状態の実現により高速電荷輸送材料を実現することである。初年度では既に取り扱い可能な、積層に適したノルコロールの置換基の調査と集積化を実現し、その集積体が電荷輸送特性を示すことも明らかにしており、当初の目的の半分を達成したと言える。さらに、反芳香族分子の超分子化はこれまでに例が無く、学術的にも価値のあり当初の計画以上の成果が出ていると考えている。本研究成果は国際雑誌Dalton Trans, 2020年, 49巻, p14383に掲載されている。また、名古屋大学卓越大学院プログラムトランスフォーマティブ化学生命融合研究大学院(GTR)プログラムにおいて、最優秀研究推進者として表彰されている。しかし、反芳香族分子の多重積層化に続き、高速電荷輸送材料実現には得られたノルコロールの積層体に対して電子ドープを行い、混合原子化状態を実現する必要があると考えている。材料としての機能追求の可能性が残されているため、この研究進展状況を選択した。
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今後の研究の推進方策 |
今回得られた多重積層体に対して酸化剤・還元剤を作用させ、電子ドープを行うことで混合原子価状態を実現する予定である。モデル検討として積層していない単体のノルコロールに対して電子ドープを行い、ラジカル種の安定性を調査する予定である。既に、還元剤を作用させることでノルコロールのラジカルアニオン種の単離には成功しているが、大気下で徐々に分解する様子が観察されている。今後は酸化剤を作用させ、ラジカルカチオン種の単離も試みる予定である。反芳香族分子の多重積層体に対して、電子ドープすることで得られた混合原子価状態が大気下で安定であることを実証できれば反芳香族分子の多重積層化が電荷の安定化に有用であることを示すことができると考えている。本年度はノルコロールの多重積層化に続き、反芳香族分子を用いた電荷の非局在化と高速電荷輸送材料としての性能までも追求する予定である。
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