研究課題/領域番号 |
20J11886
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
吉川 翔 東京大学, 数理科学研究科, 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
|
キーワード | 偏極自己準同型写像 / 力学系 / 代数幾何学 |
研究実績の概要 |
今年度は,去年度の結果を使うことにより,偏極自己準同型写像を持つ代数多様体がトーリック多様体になることの特徴づけを与えた.偏極自己準同型写像を持つ滑らかな代数多様体が有理連結であるならば,トーリック多様体になるだろうという予想があり,これは上述した予想の特別な場合である.この問題の方針の一つとして活用できるのではないかと期待している. この特徴づけの証明では,多様体の自己準同型から誘導されるCox環の上の自己準同型写像の力学系を調べることが重要だった.Cox環の考察や,環上の力学系の調査は新しい試みであり,今後の研究の幅を広げるものになったと思う.また,この証明は正標数の代数幾何における,Frobenius写像を使ったトーリック多様体の特徴づけの類似であり,その手法が標数0でも使えるという点で,興味深い証明だと思う.また上述のとおり,結果に関しても,古典的な予想と関係があり,興味深いものとなった. また,混標数の極小モデル理論の研究も行った.この研究は,偏極自己準同型写像を持つ多様体の構造とは直接の関係はない.しかし,その構造を調べる際に,極小モデル理論を頻繁に使っていた.その経験を活かすことができたと思う.この研究が,今後の整モデルの構造を調べることを初めてする,多くの応用を持っていることを期待している. また,2020年度は研究集会で発表する機会にも恵まれた.7月に行われたKIAS主催の研究集会では,偏極自己準同型写像を持つ代数多様体の構造や,自己準同型写像の力学系に関連する研究者が集まった.私の研究と深く関係する講演ばかりで,今後の研究にも大いに役立つものになったと思う.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の最終目標は,Broustet氏と權業氏の予想を解決することと,偏極自己準同型を持つ代数多様体がトーリックであることと有理連結であることが同値なことを示すことである.また,Broustet氏と權業氏の予想とは,偏極自己準同型を持つ代数多様体が与えられたとき,それをエタール被覆で取り換えることにより,Albanese多様体上Calabi-Yau型になるという予想である.去年度の研究により,これらの予想に関する重要な結果を得た. ``Xを偏極自己準同型写像を持つ滑らかな複素代数多様体とする.このとき,Xをエタール被覆で取り換えることによって,Albanese多様体上Fano型となる.'' 今年度は,この結果を使うことにより,偏極自己準同型写像を持つ代数多様体がトーリック多様体になることの特徴づけを与えた. ``Xを偏極自己準同型写像fを持つ滑らかな複素代数多様体とする.このとき,Xがトーリック多様体であることと,任意の線形束Lに対して,Lのfにおける押し出しが線形束の直和になることが同値である.'' この結果を見ると,目指すべき目標に近づいているのを感じる.
|
今後の研究の推進方策 |
これからは偏極自己準同型を持つ代数多様体の構造を調べることに加えて,混標数の代数多様体の極小モデル理論や混標数の代数多様体の特異点論についても研究していきたい. 今年度は,混標数の極小モデル理論の研究も行った.この研究は,偏極自己準同型写像を持つ多様体の構造とは直接の関係はない.しかし,その構造を調べる際に,極小モデル理論を頻繁に使っていた.その経験を活かすことができたと思う.この研究が,今後の整モデルの構造を調べることを初めてする,多くの応用を持っていることを期待している.その応用をこれから探っていきたいと考えている.特にアラケロフ多様体への応用に興味を持っている. さらに,混標数の代数多様体の極小モデル理論において,``T正則性''という混標数の特異点を新たに定義することで,問題を解決した.これは正標数における強F正則,標数0におけるログ端末特異点の類似である.この特異点のクラスは非常に興味深く今後も研究を続けていきたい.それに加えて,正標数におけるT純という特異点の類似が混標数に存在し,それも有用であると予想している.
|