研究課題/領域番号 |
20J11915
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
石井 杏佳 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | ストロンボリ式噴火 / 空振 / 阿蘇火山 |
研究実績の概要 |
本研究では、ストロンボリ式噴火の噴火ダイナミクスの理解を目指して、噴火発生時の噴出フラックスの推定を行う。今年度は、噴出フラックスの推定時に必要となる、マグマヘッドの深さを推定する手法の確立を行った。マグマヘッドの深さを推定する手法は様々なものが存在するが、いずれも未知数が複数存在することから、深さを精度良く制約することが難しい。そこで本研究では、2種類の推定方法を組み合わせることで、深さと未知数である火道内音速を同時に推定する手法を確立した。組み合わせた2種類の方法は、空振の卓越周波数を用いる方法と、噴火発生時の地震・空振の到来時間差を用いる方法である。阿蘇火山で2015年4月下旬に得られた地震・空振データに適用した結果、先行研究よりも、浅く狭い領域に深さが制約された。また、同時に火道内音速は低速側に偏りを持つ分布が得られた。推定された深さ・音速はいずれも、他の観測事実と比較しても概ね妥当であると考えられる。このように、2つの未知数を同時に推定することができたのは、初めての成果である。 また上記と並行して、阿蘇火山2014-2015年活動期全体の地震・空振記録から10万を超えるイベントを検出した。約半年間に渡って記録された大量のデータを処理するために、イベントの検出およびその特徴量の抽出作業を自動化した。これによって、活動期全体に対してマグマヘッドの深さを推定し、その時間変化を議論する準備が整った。さらに、抽出した波形の特徴量(特に、波形の周波数構造)に基づいて、活動期を4つに区分した。この4つの時期区分は、表面現象が変化する時期とも概ね一致していることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
噴出フラックスを推定する際に必要となる、マグマヘッドの深さをより精度良く推定する方法を確立できたため、概ね順調であると判断する。確立した方法を用いることで、他の観測結果とも大きな矛盾のない結果を得ることができている。さらに、方法の確立にあたって、これまで着目していなかった空振の倍音成分を使用することで、火道最浅部の空間の形状についても、ある程度制約できることが新たにわかった。これは、阿蘇火山の浅部火道の構造をより詳しく理解する上で、新たな知見となることが期待される。活動期全体の時間変化を議論するために、今後となる必要となるデータセットも準備を整えることができている。噴出フラックスの推定に向けて、空振の伝播シミュレーションも実施している。その過程で、伝播経路の地形が空振に与える影響についての検討も行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、まず確立した手法を用いて、活動期におけるマグマヘッドの深さの時間変化を推定する。その後、特徴的な時期に着目して、ストロンボリ式噴火発生時の噴出フラックスの推定を実施する。噴出フラックスの推定には、空振データの波形インバージョンを行う予定であるが、その際に必要となる空振伝播シミュレーションは既に一部実施済みである。現在得られている結果からは、噴火発生時の爆発現象の時定数が空振の波形特徴を支配する大きな要因の一つであることが示唆されている。空振の波形特徴は時期によって変化していたことから、活動期間中に爆発現象の時定数を決める何らかのパラメータが時間変化していたことが予想される。推定されたマグマヘッドの深さおよび噴出フラックスの時間変化を踏まえて、阿蘇火山2014-2015年活動期の浅部マグマ供給プロセスの変化を考察する。
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