今年度は、昨年度に確立した火道内のマグマヘッドの深さ推定手法を、阿蘇火山の2014-2015年活動期に取得されたデータに適用して、深さの時間変化を推定した。約半年間の地震・空振データから10万を超える爆発イベントを検出し、イベント時の地震・空振の到来時間差および空振の卓越周波数を用いて、1日ごとにマグマヘッドの深さを推定した。この際に、空振の倍音成分を用いて、火道形状の時間変化を制約し、これも考慮に加えた。推定の結果、マグマヘッドは噴火開始の約1ヶ月後から上昇を開始し、噴火活動終息の直前まで120-130 mの浅い領域にとどまっていたことが明らかになった。また、火道形状はマグマヘッドの上昇時期とほぼ同時期に、円筒から深くなるほど広がる円錐台に変化していたことがわかった。マグマヘッドの上昇に先立って、火山浅部での膨張を示唆する地盤変動が観測されており、この時期に新しいマグマの供給が増加したと考えられる。噴火活動の終息直前には、マグマヘッドの深部への移動(50 mほど)が推定された。このマグマの移動によって、不安定な火道形状を維持できなくなり、噴火活動停止のきっかけとなった火口底の崩落を招いたと考えられる。 このように阿蘇火山の噴火活動期中の供給の変化や噴火終息過程の描像を明らかにしたのは、本研究が初めてである。また、深さの推定時に火道形状の時間変化を考慮することの意義を指摘したのは、本研究の重要な点であり、改めて火口地形の定期的なモニタリングの必要性を提案した。
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