研究課題
BCS理論により記述される典型的な超伝導体とは異なるトポロジカル超伝導体(TSC)が近年注目を集めている。TSCのエッジには、非可換統計の特性を持つマヨラナ粒子が発現するとされ、それを利用したトポロジカル量子コンピュータの開発が期待されている。近年、2次元炭素物質グラフェンがTSCとなり得ることが理論的に予測された。先行例としては半導体シリコンカーバイド(SiC)基板上の2層グラフェンにカルシウムをインターカレートすると超伝導が発現することが報告されている。しかし、その原子積層モデルは未解明っで、超伝導に寄与する電子状態についても議論が分かれ、TSCの可能性は未検証であった。本研究では、従来よりさらに薄いSiC上単層グラフェンを舞台とし、カルシウムインターカレート誘起超伝導の起源の解明を行った。具体的には、電子回折と角度分解光電子分光の観測により原子構造と電子状態を明らかにし、その場電気伝導測定から超伝導特性を調べた。今年度は、試料作製過程でグラフェンとSiC基板との界面で構造変化が起こり、SiC上単層グラフェンが2層グラフェンへと変化するため、グラフェン層間へのカルシウム原子のインターカレートが可能となり超伝導が誘起されることを発見した。また、グラフェンの層間にカルシウム原子が位置する場合にのみ超伝導が発現するという原子構造との対応関係を明らかにした。さらに、グラフェン層間のカルシウム原子だけではなくSiC基板表面を終端するカルシウム原子からもグラフェンへ電子がドープされていることを指摘し、これまで注目されてこなかったグラフェンと基板の界面が、原子構造および電子状態の観点からグラフェン超伝導に大きく影響することを示した。これによりSiC上グラフェンにおけるカルシウムインターカレート誘起超伝導の描像がより明瞭になり、超伝導の起源の解明に向けた重要な進展となった。
2: おおむね順調に進展している
カルシウムインターカレートグラフェンについて、計画通りその原子構造や電子構造を詳細に調べた。また、超伝導発現と原子構造や電子状態との相関を明らかにすることで、どういった条件が超伝導発現に必要であるかを解明した点も、おおむね計画通りである。
今年度で得られた知見をベースに、カルシウムインターカレートグラフェンの超伝導に寄与する電子状態を解明することを目指す。それにより、超伝導の発現機構を明らかにし、カルシウムインターカレート誘起超伝導が非従来型であるか否かを議論することで、グラフェンにおけるトポロジカル超伝導(TSC)の実現に必要な条件を洗い出す。また、カルシウム以外のアルカリ・アルカリ土類金属についても同様にインターカレート誘起超伝導の探索を視野に入れながら原子構造や電子状態を調べ、グラフェンにおけるTSCのために最も有望な原子種について考察を深める。そして、TSCが予想されるインターカレートグラフェンを実際に作製し、TSCの直接的な証拠を得るために、低温で走査トンネル分光測定を行う。
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