本研究では、癌患者ゲノミクスデータ解析を基盤として癌幹細胞のオートファジー依存的な特性を解明することを目的としている。今年度は、乳癌患者ゲノミクスデータ解析により、乳癌の中でも特に予後が悪く、治療標的のないBasal-like型乳癌において、細胞極性分子PKCλの遺伝子が高発現し、癌幹細胞マーカーALDH1A3遺伝子発現と相関することを明らかにした。さらに、ステージ後期乳癌患者においてPKCλ高発現かつALDH1A3高発現群はPKCλ低発現かつALDH1A3低発現群よりも予後不良であることを明らかにした。これらのことから、ALDH1A3陽性乳癌幹細胞におけるPKCλ高発現が患者の予後不良に関与していると考え、細胞実験を行った。Basal-like型乳癌細胞株からALDH1陽性乳癌幹細胞のモデル細胞を分取し、PKCλとALDH1A3を免疫蛍光細胞染色を行った。その結果、細胞質においてPKCλとALDH1A3は共局在した。さらに、CRISPR-Cas9システムによりPKCλノックアウト細胞株を樹立し、この非対称分裂の割合の変化を調べた結果、コントロール細胞株と比較して、PKCλノックアウト細胞ではALDH1A3の非対称分配が減少した。これらのことから、ALDH1陽性乳癌幹細胞の非対称・対称分裂の新規分子機構の中心となる分子としてPKCλがALDH1A3陽性乳癌幹細胞の非対称分裂能に関与し、乳癌組織の不均一性に重要な役割を果たすことが示唆された。現在、この分子機構とオートファジーの関わりについて研究を進めている。 これらの知見は、癌の治療法決定に大きな障壁となっている乳癌組織の不均一性がどのようにして構築されるのかについて、PKCλ依存的な乳癌幹細胞の非対称分裂能の関与を示唆する新規の知見であることから、本研究の成果はその障壁の克服につながるものと考えられる。
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