研究課題
過去百億年以上にわたる宇宙の歴史の中で銀河がいつどのように進化し、どのような性質を持っていたかを解き明かすことは、現代天文学の大きな課題の一つである。銀河は恒星だけでなくガスやダスト、暗黒物質などによって構成された天体であり、各要素はそれぞれ異なった波長帯で輝くため、銀河の性質は多波長にわたる観測によって包括的に理解する必要がある。そこで今年度はまずガスに着目し、赤方偏移z~2からz~7の時代における銀河周りのガス構造について研究を行った。銀河周辺物質 (CGM)はインフローやアウトフローを通して銀河と相互作用するため、CGMは銀河の形成や進化を調べる鍵である。銀河から放たれたライマンアルファ (Lya)光子はCGM中で共鳴散乱し、地球からはLyaハロー (LAH)として観測される。そこで本研究では、z~7からz~2における典型的な明るさの星形成銀河のLAHを観測的に調査した。本研究では、すばる望遠鏡で得られた撮像データを解析した。撮像データは約4.5平方度の広さに及び、z=2.2-6.6の星形成銀河 (ライマンアルファ放射天体; LAE)が約3千個含まれる。LAHは暗く直接検出は難しいため、LAEの位置とLya輝線の相互相関をとることで間接的にLAHを検出し、LAHの平均的な分布を測定した (輝線強度マッピング法)。その結果、z=2.2-6.6のLAHを非常に暗いレベルまで検出することに成功した。検出されたLAHの分布を求めたところ、LAHの外側は暗黒物質ハローのビリアル半径よりも有意に広がっていることが分かった。z~2-7という幅広い範囲の星形成銀河に対してLAHの存在を観測的に示した研究はこれまで数少なく、特にビリアル半径を超えるような大規模なLAHの新存在をz~2-3で示したのは本研究が初めてである。
2: おおむね順調に進展している
本研究について既に結果が概ね出揃っており、その内容を学術論文として執筆中であるため。なお、本研究の成果は2件の国際学会と3件の国内学会で発表した。また東京大学大学院理学系研究科附属ビッグバン宇宙国際センターのセミナーに招かれ、本研究を含む内容について講演した。今年度は新型コロナウイルスのため現地への出張等は叶わなかったが、共同研究者との議論やオンライン学会への積極的な参加を通して、本研究を進めている。
これまでの研究で得られた結果を銀河形成シミュレーションの結果と比べたり、紫外連続光や酸素輝線などでも同様の解析を行ったりすることで、LAHの形成過程をより詳細に探っていく予定である。また恒星・ダストの観点からも初代銀河の性質や進化を調べ議論することを目指す。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
The Astrophysical Journal
巻: 893 ページ: 60-71
10.3847/1538-4357/ab7dbe