本年度は日本産Lasiodiplodia属30株およびCytospora属菌61株の形態的特徴,分子系統学的位置および培養性状に基づいた分類学的位置の解明および所属の整理を実施した.これまで未整理であった国内の樹木病原菌類の分類学的位置を明らかにしたとともに,高い種多様性を確認した.得られた知見は,病原菌類の同定および病害の診断時に用いる基礎的知見となることが期待できる.これらの成果は,査読付き学術誌にて2報,速報等で2報,国内学会にて4件発表した.また,これまで形態観察による種同定が困難であったPhyllostita属のいくつかの種において,畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を用いた画像解析では分生子の顕微鏡写真のみで種を識別可能であることを明らかにし,機械学習による種同定の可能性を示した.昨年度の結果では,形態的特徴等の表現形質,特に分生子の形状および大きさは,分子系統と関係しており,属あるいは種の識別に有用であることが示唆されたが,今年度の画像解析ではそれを支持する結果が得られた.昨年度と同様,新型コロナウイルス感染症の感染拡大により,海外および遠方での野外調査が実施できなかったため,実施可能な範囲でのサンプリングを行った.また,各機関の標本庫収蔵標本および菌株を供試し研究を実施した.
|