研究課題/領域番号 |
20J12026
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
八城 愛美 北海道大学, 理学院, 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
|
キーワード | 多極子 / 磁気トロイダル多極子 / 拡張多極子 / 磁気多極子 / 交差相関応答 / 非線形応答 / 群論 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、磁気トロイダル多極子秩序中における新規物性現象の開拓を目指し、磁気トロイダル多極子秩序の候補物質となる磁性金属・絶縁体を明らかにするための系統的な枠組みを構築するとともに、秩序下で生じる交差相関応答等の物性現象において重要な役割を担う微視的要素を明らかにすることである。 この目的に対し本年度は、以下3点の研究内容に取り組んだ。 まず1点目は、微視的な電子自由度を表現することができる電気・磁気・磁気トロイダル・電気トロイダルの4種類の多極子自由度が磁性体を特徴付ける122種類の磁気点群においてどの表現と対応付けられるかを網羅的に明らかにした。これにより、磁気トロイダル多極子秩序がどのような磁気点群で表される反強磁性構造において実現するのかを直ちに理解することができるため、今後候補物質の探索を行う上で有用な分類を得たことになる。(日本物理学会第76回年次大会にて成果報告済み) 2点目は、上記の分類を利用し、磁気トロイダル双極子を含む奇パリティ多極子秩序下におけるNQR・NMRスペクトルによる同定可能性をf電子系金属CeCoSiを例に挙げて検証した。ここでは、各磁場方向における超微細結合の拡張多極子を用いた表現を求めることで、共鳴核サイトの局所反転対称性が破れている場合に奇パリティ多極子の発現がスペクトルピークの分裂により同定可能であることを明らかにした。(Physical Review B誌にて論文出版済み) 3点目はジグザグ鎖構造上での磁気トロイダル双極子秩序下における電気磁気効果や非線形縦・横伝導をそれぞれ久保公式、Boltzmann理論を用いて解析することにより、系が有する2種類の反対称スピン軌道相互作用の各応答における役割を明らかにした。(日本物理学会2020年秋季大会にて成果報告済み)
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、122種類の磁気点群における多極子自由度の分類、および磁気トロイダル双極子に注目した外場応答の微視的要因の解析を行うことができたため。
まず磁気点群における多極子自由度の分類により、各磁気点群中で全対称表現に属する活性磁気・磁気トロイダル多極子が明らかになり、どのような磁気点群で表される反強磁性構造に注目すれば目的とする磁気トロイダル多極子秩序の物性を調べることが可能なのかを直ちに理解できるようになった。加えて、当初予定していた全対称表現に属する多極子自由度以外についても、各磁気点群においてどのような表現に属するのかを網羅的に明らかにしたことにより、今後磁性体中でのバンド変調や外場応答の微視的要因を見通しよく明らかにしていくことができるようになった。
また磁気トロイダル多極子秩序における秩序状態の安定性や交差相関応答における微視的要因の探索についても、当初の計画通り本年度は最も馴染み深い磁気トロイダル双極子秩序に注目し、特に外場応答における微視的要因の探索に注力して解析を行った。ここでは、磁気トロイダル双極子秩序下で生じる線形電気磁気効果・二次の非線形電気伝導とそれらの応答を引き起こす上で不可欠な微視的な要素である反対称スピン軌道相互作用の関係性を明らかにした。また今後のより幅広い進展を見据えて、非線形電気伝導度に限らず久保公式による二次の非線形応答関数と多極子自由度の対応関係についても対称性の観点に基づいて明らかにした。これにより、新規外場応答の探索や、磁気トロイダル四極子秩序などの非従来型の多極子秩序状態がどのような応答を利用することで同定可能かを議論していく上で重要な知見を得ることができた。
|
今後の研究の推進方策 |
前年度の研究により、磁気トロイダル双極子はもちろんのこと、磁気トロイダル四極子・八極子、あるいはそのほかの電気的・磁気的な多極子自由度がどのような磁気点群中で活性化するのか、またそれらがどのような線形・非線形応答と結びついているのか、という点についての系統的な理解を得ることができた。そこで今後はこれらの知見をもとに、磁気トロイダル四極子秩序などの従来あまり議論されてこなかった多極子秩序に注目し、候補物質の探索や、秩序状態を同定するための外場応答、およびそこで重要となる微視的要素の解析を行う予定である。 また、前年度の研究によって得られた磁気トロイダル双極子秩序下における電気磁気効果・非線形電気伝導の微視的要素に関する結果を論文に取りまとめるとともに、余力があればその中でも昨今実験的な進展が著しい非線形電気伝導に注目し、f電子系金属磁性体等の具体的な系を念頭に置いた微視的要素や外場との結びつきに関する研究も行う。
|
備考 |
雑誌記事執筆 速水賢、八城愛美、柳有起、楠瀬博明「ミクロな多極子による電子物性の表現論(その3-5)」固体物理55, 379 (2020); 固体物理56, 1 (2021); 56, 171 (2021).
|