研究課題
磁気トロイダルモーメントは、磁気モーメントと異なる空間反転対称性を有する磁気的な自由度であり、多くの場合渦状のスピン配列によって表現される。その一様な秩序は電気磁気効果などの交差相関応答を引き起こすことから近年注目を集めている。一方、磁気トロイダルモーメントが空間変調を伴って分布した状態は高次の磁気トロイダル多極子によって表現され、その一様な秩序状態においても多様な伝導現象や交差相関応答の発現が期待されるが、その候補物質や、そこで生じる物性現象において重要な微視的要素はこれまでほとんど明らかにされていなかった。そこで本研究では、磁気トロイダル多極子秩序の候補物質の同定、及び生じる物性現象の微視的理解を目的としている。上記の目的に対し申請者は、昨年度行った122の磁気点群の既約な表現における多極子自由度の分類を、当初の計画にあった線形応答関数に加えて非線形応答関数との結びつきについても明らかにした上でまとめた(Physical Review B誌にて出版済)。これにより、磁気トロイダル多極子秩序を有する候補物質が明らかになっただけでなく、磁性体中・外部磁場中におけるバンド変調や伝導現象等と微視的な電子自由度の結びつきを対称性の情報を利用しながら見通しよく調べることができるようになった。加えて、磁気トロイダル多極子秩序を示す幾つかの系を対象に、非線形伝導等の物性現象において不可欠な微視的要素を抽出・比較した。具体的な結果の一つは、一様な磁気トロイダルモーメントを有する共線型反強磁性秩序中で生じる電気磁気効果・非線形伝導について、磁気トロイダル双極子・八極子との結びつきを明快にした上で、多バンド有効模型を用いて上記の現象に不可欠な模型パラメーターの違いを明らかにしたものであり、この研究成果については現在論文を投稿中である。またその他の系に関しても論文を投稿準備中である。
令和3年度が最終年度であるため、記入しない。
雑誌記事速水賢、八城愛美、柳有起、楠瀬博明「ミクロな多極子による電子物性の表現論(その6-8)」固体物理 56, 333 (2021); 56, 507 (2021); 57, 181 (2022).
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Physical Review B
巻: 104 ページ: 054412-054412
10.1103/PhysRevB.104.054412
http://hayami-lab.t.u-tokyo.ac.jp/index.html