研究課題/領域番号 |
20J12027
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
吉村 さやか 日本大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | 社会学 / ジェンダー / フェミニズム / 問題経験 / ディスアビリティ / 当事者研究 / ライフストーリー調査法 / エスノメソドロジー |
研究実績の概要 |
令和2年度の研究実績の内容は大きく、追加調査の実施とアウトプット作業である。以下、それぞれについて具体的に記述する。 前者については、新型コロナ感染拡大の影響を受け、対面で実施することはできなかった。そのため調査は、ビデオ通話(Zoom)、電話、各種SNSを通じた文章でのやりとり(FacebookのMessenger、LINE、Eメール)などを積極的に利用して実施した。 とりわけ質的な調査の場合、非対面/非接触的な方法を用いることは、ディスコミュニケーションが生じやすいなどの理由から、調査のクオリティが下がることも考えられる。しかし、本調査で対象としている髪のない女性たちの多くは、髪がないことに対する差別や偏見ゆえに、他者/社会との「つながりづらさ」を「障害」として経験していた人びとであった。であるがゆえに、非対面/非接触的な方法を通して得られた彼女たちの「声」と、そこでなされた調査者と被調査者の相互行為は、対面で実施される調査と同様、あるいはそれ以上に、密で、質の高いものであった。限られた状況をむしろ積極的に利用しながら、調査協力者と種々のツールを通じてやりとりを重ね、ラポールを深化させ、丁寧な聞き取り調査を実施することができたことは、大きな成果である。 また後者については、前者と並行して収集したデータの内容分析を行い、学術雑誌への投稿論文、ならびに依頼付きエッセイを執筆し、査読を経て受理された。さらに、研究成果として博士学位申請論文を書きまとめ提出し、審査を経て、学位を取得した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題の進捗状況は、当初の計画以上に進展していると評価する。その理由について、以下ではとくに、学位取得に関する記述を通して、具体的に評価したい。 本年度は、新型コロナ感染拡大の影響を受け、対面での調査、ならびにフィールドワークを行うことができないという深刻な状況であった。調査ができない状況は、研究に取組む意欲を低下させ、研究成果につながらないこともある。しかし申請者は、これまでの調査・研究の経験を通して、調査対象者の女性たちが抱える「生きづらさ」とは、いままさに世界を席巻している他者や社会との接触のしづらさ、ならびに、直接的で身体的な相互行為のしづらさであることを熟知していた。そこで申請者は、非対面/非接触が推奨されるこの状況だからこそ、聞き取りうる「声」があると判断した。そのうえで、ビデオ通話、電話、各種SNSなど、非対面/非接触で連絡を取り合うことのできる様々なツールを積極的に取り入れることで、継続的な調査・研究の実施を成功させた。さらに、研究成果を学位申請論文にまとめ、審査を経て、学位を取得したことは評価に値する。 また日本大学では、これまで公聴会は対面状況での開催であったが、新型コロナの感染拡大が収まらないなか、申請者の公聴会はオンライン(Zoom)で開催された。公聴会には隣接領域の大学研究者だけでなく、申請者の調査・研究を行う目的や姿勢に理解と共感を示してくれた調査協力者たちや当事者運動の活動家などが、東京だけでなく全国から多数の参加があった。結果、日本全国から60名ほどの参加者が集い、闊達な議論がなされ、盛会に終わった。このように、限られた状況に屈することなく、そこで何ができるかを考え、実践し、それを研究の成果へつなげたことは、期待以上の進展であると評価する。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策の内容は大きく、追加調査とアウトプット作業の実施である。以下、それぞれについて具体的に記述する。 前者については、現時点で、新型コロナ感染拡大の収束の見通しが立っていないため、非対面/非接触的な方法(ビデオ通話、電話、ならびに、各種SNSを通じた文章でのやりとり:FacebookのMessenger、LINE、Eメール)などを活用しながら、追加調査を実施する。なお現在の調査フィールドの動向として、様々に名付けられた当事者の会が新たに続々と発足し、当事者運動が活発化していることがある。この点をふまえ、主催者側に調査の目的を事前に伝え、参加の許可を得たうえで、交流会やイベント(オンライン開催)に参加し、当事者研究をベースにしたフィールドワーク(参与観察)を行う。加えて、それらの活動を提供する/される側のニーズについて聞き取り調査を行い、その背後にある社会的状況について社会学的に考察する。いずれの調査も、調査倫理を遵守し、丁寧にラポールをとり、プライバシー保護を徹底しながら実施する。 後者については、前者で得られたデータを社会学的に検討・考察し、研究成果にまとめ、学会での研究報告、ならびに、学術雑誌への投稿論文を執筆する。それらの作業と並行して、博士論文のリライト作業を進め、単著にまとめる。これらのアウトプット作業では、いずれにおいても、その都度必ず、調査協力者に、事前に内容の確認をしてもらい、公表の許可を得るようにする。
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