今年度は、13世紀後半から14世紀初頭に活動した預言者であるマルゲリータ・ダ・コルトーナ、キアラ・ダ・モンテファルコ、ドルチーノ・ダ・ノヴァーラ(アポストリ)を事例として、預言者と托鉢修道会による司牧活動、地域社会との関わりを、人的結合と実践という観点から検討した。その目的は、預言者・神秘体験者・異端者といった人々が司牧革命・規律化において主体的に担った役割/彼らに期待された役割を明らかにすることで、後期中世における信仰文化や司牧的権力の多元性を明らかにすることであった。 この課題の遂行を通じて、特に以下の2点の成果が得られた。 ① 聖職位階制と預言者・神秘体験者・異端集団間の相互浸透の解明:従来の研究が霊性とイデオロギーにおける二項対立を設定してきたのに対して、本研究は人的結合と実践における両者の境界が曖昧ないし不在であり、「正統と異端」が共通の司牧志向を有していたこと、後者を中心とする連帯が規律化の場として機能していたことを示唆した。この点については複数の雑誌論文・書籍収録論文にて成果を公表した他、国内外の研究会で口頭報告を行った。 ② 預言者による「霊の識別」の存在: これまでの研究が規律化の手段として預言者・神秘体験者・女性に対する適用を強調してきた「霊の識別」が、預言者による周囲の統制や預言者間の競合という文脈において、彼ら自身によって実践されていたことを明らかにした。この点についても複数の雑誌論文において成果を公表することができた。
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