優れた生体適合性を示し実際に臨床応用されている合成高分子であるポリ(2-メトキシエチルアクリレート)(PMEA)は、血球細胞の接着を抑制し、がん細胞や正常細胞は接着する選択的な細胞接着性を示す。本研究ではこのPMEAの選択的な細胞接着性の解明を目指した。 2021年度は2020年度に引き続き、密度の異なるポリ(2-メトキシエチルアクリレート)(PMEA)ならびにその類似体高分子の水和状態(水和量・運動性)の解析を行った。さらに、その基板上で血管内皮細胞の接着挙動を評価した。 疎水性高分子では、水和量はグラフト密度に依存せず少なかった。一方で、中間水を有し抗血栓性を発現するPMEA類似高分子では水和量および水和した高分子鎖の運動性がともに高いことを明らかにした。さらに特定のグラフト密度のPMEAは、抗血栓性と血管内皮細胞の接着性を併せ持つ高機能な界面であることを明らかにした。 PMEA上への細胞接着に関与するタンパク質であるフィブロネクチンは密度に依存せず一定量接着した。グラフトPMEA 上に接着した内皮細胞の数や伸展面積は、足場となるタンパク質(フィブロネクチンやビトロネクチン)中の細胞接着部位の露出量と相関がない一方で、水和したPMEA鎖の運動性と良い相関を示した。このように血管内皮細胞の接着数や伸展などの接着挙動には、足場となるタンパク質中の細胞接着部位の露出量だけでなく、高分子膜側の運動性も重要であることを明らかにした。 以上のことからPMEAの選択的な細胞接着性は、PMEA/水界面で血小板の粘着に関与するフィブリノーゲンの吸着を妨げ、細胞の足場であるフィブロネクチンを安定して接着させるような、水和状態(水和量は高く運動性も高い)を構築しているためだと考えられる。
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