アントラサイクリン系薬剤は主要な抗がん剤であるが、ときに重篤な心筋症を誘発することでがん患者の生命予後を著しく悪化させる。本研究はがん存在下に、マウスや培養心筋細胞に対するアントラサイクリン系薬剤の心毒性を解析することによって、がん由来因子が心臓表現型に与える影響について検討し、アントラサイクリン心筋症の病態機序の解明と治療標的分子の同定を目的としている。 当該研究員は、マウス乳がん細胞を皮下移植した担がんマウスに対して、ドキソルビシン (アントラサイクリン系薬剤の代表的薬剤) を投与することによって担がんドキソルビシンモデルマウスを樹立した。担がんドキソルビシンモデルマウスでは、心臓超音波検査や組織学的検査等による表現型解析の結果、強い心機能障害および心臓萎縮が認められ、『何らかのがん由来因子』がアントラサイクリン系薬剤に伴う心毒性を助長している可能性が示唆された。また、その心毒性には一部の筋萎縮関連遺伝子の発現上昇が関わっている可能性が示された。さらに担がんドキソルビシンモデルマウスの血清由来エクソソームをドキソルビシンと共添加すると、ラット新生仔心筋細胞に対して著明な心筋細胞障害を誘導した。続いて、担がんドキソルビシンモデルマウスの血清由来エクソソームに内包されるmiRNAを抽出した後に、miRNA アレイ法を用いた網羅的発現解析を行い、がん由来因子となり得る候補 miRNA を明らかにした。がん由来 miRNAは、アントラサイクリン系薬剤投与に伴う心毒性を増強することによって、心筋症の表現型の増悪に関わる可能性がある。 がん由来miRNAをアントラサイクリン心筋症の新たな診断・発症予測モダリティー、あるいは治療ターゲットとして応用することによって将来的に診療技術が向上することが期待できる。
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