研究課題/領域番号 |
20J12091
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
吉岡 育哲 早稲田大学, 理工学術院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | Aspergillus tubingensis / citric acid / CRISPR/Cas9 / filamentous fungi / gene replacement / genome editing / mitochondria / transporter |
研究実績の概要 |
本研究では、クエン酸高生産糸状菌(カビ)であるAspergillus tubingensis WU-2223Lを宿主としてゲノム編集を駆使し、クエン酸生産機構の解明および生産機構の適切な改変(利用)による有用有機酸生産菌の育種を目的としている。令和2年度の研究では以下の研究を実施した。 (1) 迅速かつ高効率な遺伝子置換を可能とするゲノム編集技術の確立 CRISPR/Cas9のおけるgRNAを発現カセット(DNA)としてCas9タンパクとともに糸状菌細胞に導入することでゲノム編集が可能なことを見出した。本法の利点としてはgRNA源(DNA)を容易に改変可能な点であり、その応用例として2つの遺伝子を標的とする一本のgRNA発現カセットを用いることで95%以上の効率で同時に編集が可能なことを見出し、任意の遺伝子をシームレスに遺伝子置換が可能な技術を開発した。さらに対象とする2つの遺伝子の片方をゲノム編集によって欠失した場合と再生した場合にそれぞれ選択が可能な遺伝子として欠失で目的の株を選択後に簡便に再生する手法を考案し、繰り返し種々の遺伝子を置換可能な方法へと発展させた。 (2) クエン酸生産の場のであるミトコンドリアに局在するクエン酸輸送体遺伝子の同定 ミトコンドリア局在型クエン酸輸送体遺伝子cocAとctpAについてゲノム編集を用いた機能解析を実施した。既知の主要なクエン酸輸送体遺伝子cocAをゲノム編集を用いて再度遺伝子ノックアウトするとクエン酸生産量は75%激減した。さらにcocA遺伝子ノックアウト株を宿主にctpAをノックアウトするとクエン酸生産量が98%激減した他、栄養要求性と著しい生育遅延が生じることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
クエン酸高生産糸状菌を宿主とした有用有機酸生産菌の育種において必須な技術となりうる大規模かつ繰り返し改変が可能な遺伝子置換技術を開発することに成功した。とくに本法は有用有機酸生産菌のみならず他の有用菌育種への応用や種々の糸状菌への応用が期待される技術である。また、ゲノム編集を駆使することでクエン酸高生産糸状菌における主要なミトコンドリアのクエン酸輸送体遺伝子を決定することに成功し、有意義な成果を収めることができた。以上の成果をまとめると、「有用有機酸生産菌の育種」に向けた基盤技術および知見が明確になり、研究計画に準じて進行している。さらに本成果は学術誌へも掲載されており、研究全体が順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度の研究においてクエン酸の高生産を担うミトコンドリア局在型クエン酸輸送体遺伝子2種の同定に成功した。一方で、これらの二重の遺伝子破壊により著しい生育遅延が生じることから実用生産菌宿主として不適であることも明らかになった。したがって、次年度の有用有機酸(trans-アコニット酸)生産菌の育種にあたってはクエン酸生産により寄与の大きいcocAの改変に焦点を当てて実施する。具体的には、確立したゲノム編集による遺伝子置換法を利用してクエン酸輸送体遺伝子cocAをアコニット酸輸送体遺伝子に置換することで「クエン酸生産の抑制」と「アコニット酸生産の促進」を同時に実現し、さらにクエン酸生産糸状菌の大規模かつ適切な代謝改変を通じてtrans-アコニット酸の高生産菌の創製に挑戦する。また、クエン酸輸送体遺伝子以外のミトコンドリア局在型有機酸輸送体遺伝子に関しても研究対象とし、網羅的な機能解析を通じてクエン酸やアコニット酸の輸送系を最適に抑制/促進する「輸送系の最適化」について着手する予定である。最終年度である令和3年度の目標として当該成果の学会および論文発表を目的として研究を実施する。
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