研究課題/領域番号 |
20J12125
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
川崎 渉 東北大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | 有機半導体 / カチオン-アニオン相互作用 / イオン性結晶 / ナフタレンジイミド / ゲスト包接 / 熱安定性 / 分子集合体 |
研究実績の概要 |
研究対象としたイオン性ナフタレンジイミド(NDI)誘導体は、対カチオンの交換反応により多様な機能性カチオンユニットを分子集合体中に導入可能である。本研究では、優れた熱・化学的安定性を有する多重機能性n型有機半導体の開発を目的とし、機能付加の観点から電界効果型トランジスタ(FET)を用いた多重機能性分子素子の開発に取り組んでいる。 本年度は、ゲスト分子の包接特性の発現を目指し、これまで研究対象として用いてきたbis(benzenesulphonate)-naphthalenediimide (BS-NDI)のフェニル基のメタ位にスルホネート基を導入したmBS-NDI骨格に着目した研究を実施した。(M+)2 mBS-NDI; M = Na, K, Rbを作製し、その熱安定性、ゲスト分子包接特性、分子集合体構造に関する評価を試みた。さらに、熱重量測定から、(M+)2 mBS-NDI; M = Na, K, Rbが800 K付近まで熱減少が観察されず、静電相互の導入により低分子系有機材料としては非常に高い熱安定を示すことを明らかとした。 (M+)2 mBS-NDIの吸着等温線測定から、Na, K, Rb塩のゲスト分子の吸着特性を評価した。K塩は、室温で水 3分子、MeOHを2分子、MeCN を2分子吸脱する事が確認された。粉末XRDおよび単結晶X線構造解析から、吸着前後の構造変化を確認した。粉末XRD測定から、無水の(K+)2 mBS-NDIと比較すると、水、MeOH、MeCNを暴露したサンプルにおけるピーク形状の変化が観察され、ゲスト分子の吸着前後で分子集合体構造が変化することが示された。次に、(K+)2 mBS-NDIの無水結晶、水、MeOH、MeCNの各ゲスト包接結晶の単結晶X線構造解析に成功した。結果、ゲスト分子の包接により結晶構造が大きく変化することが分かった。 今後、電子移動度特性を評価し分子集合体構造とゲスト包接の影響を綿密に議論する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
「高密度分集合体を舞台とする多重機能性材料の創製」に係わる研究を確実に推進した。本年度は、ゲスト分子の包接特性の発現を目指し、これまで研究対象として用いてきたbis(benzenesulphonate)-naphthalenediimide (BS-NDI)のフェニル基のメタ位にスルホネート基を導入したmBS-NDI骨格に着目した研究を実施した。 熱重量測定から、(M+)2 mBS-NDI; M = Na, K, Rbが800 K付近まで熱減少が観察されず、静電相互の導入により低分子系有機材料としては非常に高い熱安定を示すことを明らかとした。さらに、(M+)2 mBS-NDIの吸着等温線測定から、Na, K, Rb塩のゲスト分子の吸着特性を評価した。例えば、K塩は、室温で水 3分子、MeOHを2分子、MeCN を2分子吸脱する事が確認された。以上から、イオン性NDI誘導体の構造自由度の増加により、熱安定性を保持しながら、ゲスト包接能を発現することに成功した。 粉末XRDおよび単結晶X線構造解析から、吸着前後の構造変化を確認した。前者の測定から、無水の(K+)2 mBS-NDIと比較すると、水、MeOH、MeCNを暴露したサンプルにおけるピーク形状の変化が観察され、ゲスト分子の吸着前後で分子集合体構造が変化することが確認された。さらに、(K+)2 mBS-NDIの無水結晶、水、MeOH、MeCNの各ゲスト包接結晶を得ることに成功し、単結晶X線構造解析を行った。結果、ゲスト分子の包接により結晶構造が変化することが判明した。以上、電子移動特性に密接に関わる分子集合体構造が、ゲスト分子により劇的に変化したことから、ゲスト分子の包接による電子移動度特性のスイッチングの可能性が示された。
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今後の研究の推進方策 |
次年度の研究を継続し、ゲスト包接イオン性NDI誘導体および、さらなる機能性付加を目指したイオン性NDI誘導体の設計を行う。本年度に実施したゲスト包接に由来する構造変化に着目し、構造と電子移動度特性のスイッチングに関する検討を行う。具体的には、(M+)2 mBS-NDI; M = Na, K, Rbの無水、水、MeOH、MeCNを暴露したサンプルに対する電子移動度の評価を行う。単結晶X線構造解析から得た構造と電子移動度の関連を検討し、構造-物性相関について議論する。さらに、NO2など電子供与が可能なゲスト分子に着目し、NDI骨格の電子ドープによる電気伝導性の制御の可能性を検討する。一般に、半導体中の不純物は電子移動を下げるため、ゲスト包接による半導体特性のスイッチングを検討した研究例が少ない事から、興味深く独創的な研究が展開可能であると考える。 さらなる「多機能性有機半導体材料」の開発を目指し、分子設計およびカウンターイオン設計を試みる。具体的には、磁気スピンをもつ金属カチオンをイオン性有機半導体材料に導入し、磁性機能とのカップリングを検討する。これまで得られているイオン性有機半導体とカウンターイオンとの集合体構造の知見を元に、結晶化条件を検討し磁気-電気化学特性の共存に関する研究を試みる。国際学会および国内学会に積極的に参加し、情報収集および成果発表を行い、最終的に博士論文へとまとめる。
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