研究課題/領域番号 |
20J12137
|
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
岩崎 加奈子 筑波大学, 人間総合科学研究科, 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
|
キーワード | 睡眠 / 責任領域 / 神経細胞サブタイプ / 神経回路 / 遺伝子改変マウス / AAV |
研究実績の概要 |
SIK3の機能獲得型Sleepy変異(SLP)は、睡眠量と、睡眠要求の指標であるノンレム睡眠時の脳波デルタパワーを増加させる。しかし、SLPが睡眠量とノンレム睡眠時のデルタパワーを増加させる責任脳領域は明らかになっていない。本研究では、AAVを用いて脳局所でSLPを発現させ、睡眠覚醒行動を観察することで、SLPの責任脳領域を神経細胞群レベルで解明することを目指している。①成体マウス脳でSLPの脳局所発現を行う前段階として、成熟神経細胞でのSLPの発現が睡眠量と睡眠要求の増加に十分であることを示した。具体的には、新たに作成したSynapsin1-CreERT2マウスと、Cre依存的にSLPを発現する(Sleepy-flox)マウスを用いて、成熟神経細胞特異的にSLPを発現するマウスを作成した。このマウスで、タモキシフェン投与により生後14日齢以降にSLPの発現を誘導したとき、睡眠量とノンレム睡眠時のデルタパワーが増加することを明らかにした。②脳局所でのSLPの発現が、睡眠量の増加に十分であることを明らかにした。Sleepy-floxマウスにCre発現アデノ随伴ウイルス(AAV)を投与することで、脳局所でSLPを発現させ、脳波筋電図測定により睡眠覚醒行動を観察した。脳波筋電図測定後にマウス脳切片を作成し、AAVの感染領域を調べた。睡眠量と感染領域を関連づけて解析し、SLPの発現により睡眠量を増加させる脳領域を見いだした。この脳領域を候補脳領域とした。③候補脳領域において、睡眠増加に十分な神経核と神経細胞サブタイプを明らかにするため、Creマウス脳に、Cre依存的にSLPを発現するAAVを投与し、脳波筋電図測定を行った。候補脳領域に含まれる神経核のひとつで、SLPの発現による睡眠増加を認めた。他の神経核でもSLPが睡眠量を増加しうるのか明らかにするため、現在も実験が進行中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
成体マウス脳でSLPの脳局所発現を行う前段階として、Synapsin1を発現する成熟神経細胞におけるSLPの発現が睡眠量の増加に十分であることを示し、Journal of Neuroscienceに発表した。その後、Sleepy-floxマウスを用いて、SLPの発現により睡眠量が増加する脳領域を見いだし、候補脳領域とした。さらに、Creマウスを用いて、候補脳領域の特定の神経細胞サブタイプにおけるSLPの発現が睡眠量の増加に十分であることを明らかにした。以上について、ほぼ交付申請書の通りに研究が進展している。当初予定していたシングルセルシーケンスによる細胞集団の同定はできていないが、代わりに、神経回路による神経細胞集団の絞り込みを行うこととし、実験が進行中である。また、次年度の計画に含まれていた、SLPを全身性に発現したマウスの候補脳領域におけるSLPのノックアウトについては、予定よりも実験が進行している。以上の結果を踏まえれば、おおむね順調に進展していると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
①SLPが睡眠増加を引き起こす神経回路を明らかにする。これまでに、特定の神経回路だけにSLPを発現させるAAVを新たに作成し、実際に、目的の神経回路特異的にSLPを発現させられることを確認した。今後は、このマウスで脳波筋電図測定を行い、特定の神経回路におけるSLPの発現が睡眠量を増加しうるのか明らかにする。②SLPの全身性発現により睡眠量が増加したマウスで、候補脳領域におけるSLPの欠損が睡眠量を減少させるか調べる。これまでに、Sik3をターゲットにしたshRNA発現AAVを脳局所投与することで、AAVの感染領域において、Sik3のmRNAが減少することを確認した。ノックダウン効率を調べるため、AAV感染領域のmRNAとタンパク質の両方に対して、今後定量的な解析を行っていく。十分なノックダウン効率が確認された後、脳波筋電図測定を行い、候補脳領域におけるSLPのノックダウンが睡眠量を減少させるか調べる。③上述の成果を論文にまとめ、国際学術雑誌への発表を目指す。
|