昨年度に投稿していた逐次予測的な熱力学第二法則および初期通過時刻に対する運動論的不確定性関係に関する2つの論文が出版された.
前者の逐次予測的な熱力学第二法則の定式化について,測定とフィードバックを含めた情報熱機関への拡張を行なった.具体的には,熱機関の状態についての補助的な情報を知らせるメモリー機関を追加し,それぞれに対する熱力学第二法則から,各熱機関の状態系列に関する大数の法則が証明できることがわかった.ただし,この結果は昨年度までの結果の素朴な拡張で得られる一方で,その物理的な位置付けや含意については十分に検討できておらず,論文化には至っていない.
また,大数の法則に基づく確定的な振る舞いを超えたゆらぎの性質を調べるために,カッツリング模型の動的な大偏差ゆらぎの母関数を厳密に計算した.その結果,長時間後のゆらぎの統計が,初期時刻におけるマクロ状態に依存するという病的な性質を発見した.この結果は論文として出版済みである.このゆらぎの緩和の病的な性質が決定論的可逆力学系でどの程度一般的であるのか及び熱浴やノイズがゆらぎにどう影響を与えるのかを調べるため,カッツリング模型の変種についても検討している.
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