研究課題/領域番号 |
20J12227
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
北村 貴士 慶應義塾大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | ヒポクレリンB / ボロン酸 / 過酸化水素 / 光感受性分子 / がん細胞 / 光分解 / 光線力学療法 |
研究実績の概要 |
刺激応答型光感受性分子は、治療標的とする疾患部位に過剰発現しているバイオマーカーに応答して初めて、光感受性の発現がOFFからONに変化する化合物である。光照射を行うことで、ONの状態の分子が治療効果を示す一方、標的疾患部位以外ではOFFのままであり、治療目的以外の光の曝露を受けても毒性を発現しないため、光線力学療法における光過敏症の副作用を低減することが期待できる。本研究では、新たな刺激応答型光感受性分子の候補として、光感受性のON/OFFを制御可能な鍵となる構造として申請者が発見した1,3-ジカルボニルエノール構造を有し、かつ生体透過性の高い近赤外光で励起可能な天然物ヒポクレリンBに着目し、ヒポクレリンBとバイオマーカー応答部位とを連結した新規刺激応答型近赤外光感受性分子のデザイン、合成、及び機能評価を行った。バイオマーカーとしては、特に高転移能のがん細胞に過剰発現する過酸化水素を選択し、その応答部位として芳香族ボロン酸を、ヒポクレリンBの有する2つの水酸基に連結したハイブリッド分子1をデザイン、合成した。次に、1のタンパク質光分解活性及び一重項酸素生成能を評価した。その結果、当初のデザイン通り、660 nmの光照射下における1のタンパク質光分解活性及び一重項酸素生成能がヒポクレリンBと比較して顕著に低下し、1の光感受性がOFFであることを明らかにした。さらに、バイオマーカーとして選択した過酸化水素に対し1が反応し、光感受性がONであるヒポクレリンBを放出して光感受性が回復することを明らかにした。最後に、正常細胞及び過酸化水素を過剰発現するがん細胞のマウスメラノーマ細胞B16F10を用いて1の細胞毒性を評価した。その結果、1が正常細胞と比較してB16F10細胞選択的かつ光照射依存的に細胞毒性を発現する過酸化水素応答型近赤外光感受性分子であることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実施計画として、2020年度においては、天然物ヒポクレリンBを基本骨格とした新規刺激応答型近赤外光感受性分子のデザインと合成、さらには、タンパク質光分解活性、一重項酸素生成能、及び光細胞毒性などを指標としたin vitroにおける機能評価を目的としていた。すなわち、ヒポクレリンBとボロン酸とを連結したハイブリッド分子1をデザイン、合成後、(1) 660 nmの光照射下における1の光感受性がOFFであること、(2) 1が、がん細胞のバイオマーカーとして選択した過酸化水素に応答し、光感受性がONであるヒポクレリンBを放出して光感受性を回復すること、及び(3) 1が、正常細胞と比較して、過酸化水素を過剰発現するがん細胞選択的かつ光照射依存的に細胞毒性を発現すること、の3点を明らかにする計画であった。研究実績の概要に示した通り、1の合成後、(1)、(2)、及び(3)のいずれにおいても、当初の計画通り、明らかにすることができた。したがって、2020年度における本研究は、計画通り順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
研究実施計画に示した通り、2021年度においては、2020年度の研究成果を受け、腫瘍担持マウスを用いた1のin vivoにおける機能評価を行う。すなわち、1がin vivoにおいて、腫瘍組織選択的に光毒性を発現する新たな刺激応答型近赤外光感受性分子であることを明らかにする。このことによって、1が、これまでに類例のない、次世代型の光線力学療法剤であることを実証する。尚、現時点において、今後の研究の障害となる問題点はない。
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