点欠陥・構造的欠陥を導入したアニオン伝導体の開発をした.構造的欠陥を導入した試料については,その構造とイオン伝導特性の相関を明らかにすることにも取り組んだ. 前者については,層状構造を有する複合アニオン化合物のYOFやBa2ScO3Fに対して種々の点欠陥を導入して,そのイオン伝導特性を評価した.これらの結果を基に,立方晶構造のBaScO2Fを開発した.フッ化物イオン空孔を導入したBaScO2Fの導電率は,200℃において4×10^-5 S cm-1であった.この値は既報の酸フッ化物で最も高い値であった.以上の点欠陥を有する新規フッ化物イオン伝導体の開発に成功した. 後者については,分子性カチオン含有フッ化物NH4(Mg0.8Li0.2)F2.8に対し,遊星型ボールミル装置を用いてメカニカルミリング(MM)処理を施すことで構造的欠陥の導入を行った.MM処理後の試料で,結晶子の微細化あるいは非晶質化が確認された.MM処理を施したNH4(Mg0.8Li0.2)F2.8の導電率は,MM処理前と比べ,100倍程度向上した.その値は室温で10^-5 S cm-1という,近年報告されているフッ化物イオン伝導体の中で高い導電率を達成した.この導電率向上の要因の解明を試みた.大型放射光施設SPring-8のBL04B2にて高輝度X線全散乱測定によるPDF解析と,TEM観察に取り組んだ.これにより,MM処理時間毎の非晶質化度の情報と微細構造の情報を取得した.これらの結果から,微細化によりイオン伝導特性が向上していることが示唆された.一方非晶質化については,イオン伝導を阻害する成分であることを示唆された. 以上から,点欠陥・構造的欠陥を有するアニオン伝導体の開発に成功した.
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